仮説力を育てるアウトプット型研修の取り組み
アルミ型材資材に特化し製造業の縁の下の力持ちを理念にしている企業では、これまで10年以上にわたり、社員教育に力を入れてきました。その取り組みは決して派手なものではなく、「うさぎの一歩よりも亀の一歩」と社員1人ひとりの成長を目指し、地道に続けられています。

この会社には、創業当初から一貫して変わらない方針があります。それは、「社員の成長が、会社の成長である」という考え方。そして、「経営の目的はお客さまをつくるためにある。社員一人ひとりが“お客さまづくり”を考える行動する」という、全社員営業という考えです。
製造、営業、配達、業務、会計――どんな職種であっても、お客様とのつながりを意識し、自分の仕事を“お客さまを生む手段”として捉える。そうした価値観を育むために、これまでランチェスター戦略の基本的な考えや数多くの事例を学ぶインプット型の研修を重ねてきました。
しかし今回、初めての“アウトプット重視”の実践型研修を企画しました。
その中心にあるのが、「仮説力」という考え方です。
目次
仮説力とは?――自分で考え、動くための思考の土台
仮説力とは、ゴールを設定して、「こうではないか?」「こうすればよくなるのでは?」と自分なりに仮の答えを立てて、そこから行動を始めるための力です。
生成AIの誕生などをはじめ、今のビジネス環境は、変化が激しく、過去の成功体験がそのまま通用しない時代です。だからこそ“正解を待つ”のではなく、「まず自分で仮説を立ててみる」ことが、スピードと柔軟性のある行動につながります。小さな会社はスピード感が大事です。小さく早く実践してみる。そしてトライ&エラーを繰り返し学習していくことが成功へのスピードを加速させます。そこに仮説力が役立つと私は信じています。
今回の研修では、仮説力を高めるために、「ある焼き鳥店の事例」を使って、実践型のワークを行いました。
条件付きの戦略立案ワーク――焼き鳥店のリアルな課題
テーマとなったのは、ある住宅街にある家族経営の小さな焼き鳥店。
創業3年目、近隣には大手チェーンのライバル店がオープン。
その影響で、常連のお客様が少しずつ離れていっているという状況です。

今回、参加者にはこの店舗の情報として、以下のような“制約条件”だけを共有しました。
- 店の前は踏切があり、車がよく並んでいる
- 家族経営のため人手が限られている
- 高級感はなく、住宅を改装した素朴な店舗
- 焼き鳥の単価はやや高め
- 競合店は近くにあり、値段は安い
このような制限の中で、「どう戦略を立てるか?」「どうやって差別化するのか?」「どうやって何度も来店してもらえるのか?」を、各チームに考えてもらいました。
部門ごとのチームで、実践的な対話が生まれる
今回は、製造部、営業部、業務部、会計など部門ごとにチームを組み、自分たちの視点から事例を読み解く形でワークを進めました。
あえて3人1組という少人数でグループを構成したことで、全員がしっかりと考え、意見を出しやすい雰囲気が自然と生まれました。
ワーク中には、こんな声があちこちから聞こえてきました。
- 「客層と営業地域を決めて考えてみよう」
- 「私たちは主婦だからお客目線で考えることが大事かも?」
- 「渋滞は弱みではなく、強みかも?」
これまで学んできた知識や事例をもとに、参加者自身が現実的な仮説を立て、
自分たちの業務と重ねながら、“今、自分ができる戦略”を考える時間が広がっていきました。
なぜ“アウトプット型”に切り替えたのか?
これまでの研修は、知識や理論を学び、それを業務に活かす“インプット型”が中心でした。
学ぶことはもちろん大切で、その積み重ねは実際に成果にもつながっています。
ただ、今回はさらに一歩踏み込み、戦略的な視点を持ち、自分たちで事業を考える力を育てたいという思いから、「仮説力」を鍛える実践型へと切り替えました。
インプットに加えて、「自分の頭で考えて表現する」アウトプットを重視したことで、社員の姿勢に明らかな変化が生まれました。
- 自分たちの仕事の枠を超えて、会社の事業全体を捉える意識が芽生える
- 他の人との対話を通じて、知識や発想が広がる
- 学んだことを自分ごととして考え、「どう活かすか」を探るようになる
たとえば、新しいサービスや営業の仕組みをつくるとき、仮説力があれば次の一歩を主体的に考えることができます。
競合調査やお客様の声の分析を通じて、価値あるサービスを組み立てる思考プロセスを、今回の研修で体感的に学ぶことができたと想っています。これからが実践です。
仮説力がもたらす4つの実践効果
- 行動のスピードが上がる
仮説があると、どのような手順で進めていけばいいのか理解が深まる。 - 問題の本質に迫れる
表面的な現象ではなく、ライバルと差別化するための取り組みに気づける。 - チーム内の対話が深まる
仮説を起点に、共通言語(ランチェスター戦略)を基本に意見交換が生まれる。 - 新しい発想が生まれる
「こうだったらどうか?」という仮説が、対話から生まれる。
社員の声:「考えるって、面白い」
ある参加者の声が、とても印象的でした。
「それぞれの部署事に違った意見が出ました。自分では考えられない意見もあり勉強になりました。」「場当たり的な発想ではリピートされない。とくに無料クーポンは。繰り返し来店頂けることが営業する上で一番大事だと想いました。」
「お客さまの声、要望、クレームを活かすことで、お客さまづくりの道がひかれることを学びました」
「仮説を立て戦略を考えるコトを楽しく勉強させていただきました。人それぞれの意見があり興味深く話しを着ていました。自分で決めたアクションプランを実行できように仕事に取り組みたいと想います!」
「業務はあまりお客と接する機会が少ないですが、接客回数を増やし、自分の顔を覚えてもらい、継続して購入してもらおうと想いました。丁寧な電話対応、気配りをしてお客さまから好かれて、気に入られて、喜ばれて、忘れられないように日々努力をします」
「今回の学習から当社に落とし込み、取り組んでいけるように頑張りたい。これからも発信を大切にしますが、日頃のお客さまとの対話にヒントが隠れていると想いました」正解のない問いに向き合い、自分の言葉で戦略を考える。その体験は、学びの深さと楽しさを教えてくれる時間となったと想います。
小さな会社こそ、全員で「お客さまをつくる」
最後に、社長の言葉を紹介させていただきます。
「毎度のことながら経営の基礎知識レベルは確実に上がってきています。SKYWの法則において、言葉としては、寝言でも言えるようになってきていると考えています。
チームで仮説、戦略、戦術を考える。講義研修を聴いて勉強になっただけでは、本当の実力アップにはならない。実際に自分たちの頭や手を動かして戦略、戦術を考えるのは一朝一夕には出来ないことなので、これからも継続していきたい。すこしでもスタッフのレベルアップをし、お客さまから選ばれる会社にしていきたい。一人の一歩よりも、みんなの一歩。それが会社の成長につながると信じています。
小さな会社だからこそ、全員で“お客さまをつくる”力を育てていきたい。」今回の研修は、知識ではなく“考える力”を育てる場。そして、それを通じて社員一人ひとりが会社の未来を担う人材へと成長していく。そんな第一歩となる時間となりました。
研修設計:佐藤元相(さとう もとし) 講師:永野 一美(ながの かずみ)

小さな会社の人材育成・広報支援を専門に、実践型の学びの場づくりを提供しています。
全社員営業をテーマにした企業研修に興味のある方はこちらから
投稿者プロフィール

-
1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。