「うちの会社、若い人が来ないんだよね」
「求人出しても応募がまったくない」
「SNSってやった方がいいのは分かるけど、何を投稿したらいいのかわからない」
そんな悩みを抱える中小企業の経営者・採用担当者の方が少なくありません。
そこで今回は、実際にInstagramを活用して若手職人の採用に成功している、岐阜県の藤岡木工所の事例をご紹介します。
訪問したのは、東京・清澄白河にあるショールーム。対応してくれたのは、あきない実践道場を卒業した4代目の後継者で現在マネージャーを担当している、藤岡伸介さん(27歳)です。

目次
「人が見える投稿」が、共感と応募を生んだ
藤岡木工所は、職人がつくるオーダーキッチンの製造・販売を手がける会社です。
お客さまは、都市部に関しては圧倒的に富裕層が中心です。商品単価は平均420万円。つまり、高い信頼を得なければ成り立たない仕事です。
そしてこの信頼を支えているのが、人の顔が見える発信です。
藤岡木工所がSNS、特にInstagramを本格的に活用しはじめたのは、採用活動の壁に直面したことがきっかけでした。3年前、マイナビなどの求人媒体を使って新卒4名の採用に成功したものの、掲載後の効果には波があり、コストも時間もかかる。
「このままでは、求める人材と出会い続けることが難しい」──そんな課題感が社内にありました。
そこで注目したのが、“見せる採用”=SNS発信です。
当初は、「何を投稿すればいいのか分からない」「本当に見てくれるのか?」という不安もありました。けれど、工場の職人の姿や日常の風景を投稿していくうちに、フォロワーが少しずつ増え、「この会社、雰囲気いいね」という反応が集まりはじめました。
実際に投稿された内容には、こんなものがあります:
- 工場で木を削る若手職人の真剣な目つき
→ 研ぎ澄まされた集中力や、職人としての矜持が伝わる写真 - 先輩が後輩に工具の使い方を教える場面
→ 指導の優しさ、社内の温かい空気感がにじみ出る - お客さまと営業が笑顔で会話しているシーン
→ 人と人との信頼関係が見える、安心感ある一枚 - 代表が語る「仕事への想い」や「未来へのビジョン」
→ 会社の方向性に共感できる動画や文章投稿
どれも、商品やスペックを紹介するものではありません。
そこに映っているのは、「働く人の姿」と「その人らしさ」です。
SNS発信が、職人採用の入り口になった
こうした投稿を地道に続けた結果、昨年はInstagramを見た職人志望の若者が2名入社しました。
2人とも、「企業の価値観が伝わってきた」「どんな人たちと働くのかイメージできた」と話してくれたそうです。
特に印象的だったのは、「会社の雰囲気が事前に見えたから、不安がなかった」という言葉。
これこそが、SNSの最大の強みです。求人情報だけでは伝えきれない「空気感」や「人間関係のあたたかさ」が、投稿のなかににじみ出ているからです。
以前は、説明会や面接まで来てもらわないと伝えられなかったことが、SNSの発信だけですでに「共感」を生む段階まで届くようになったのです。

応募=“共感の結果”という考え方
現代の若い世代は、就職先を「働きやすさ」や「給料」だけで選びません。大切なのは、“その会社の人たちと一緒に働けそうか”という直感的な共感です。
たとえば、ある制作風景の投稿では、「鉋(かんな)を研ぐ」「やすりで削る」「鑿(のみ)をつかう」という一言と、働く人の姿が動画で表現されています。これだけで、「この会社、素敵だな」と感じてもらえる空気感を演出しています。
それが、応募のきっかけになるのです。SNS発信は、共感→興味→信頼→応募 という“流れ”を生み出します。これは、求人広告ではつくれない関係性です。
発信で変わるのは“社外”だけじゃない
投稿を続けることで変わったのは、社外の印象だけではありません。
社内でも、次のような変化が生まれました。
- 「今日の作業、撮影していいですか?」と職人が自ら提案するように
- 後輩に教えるときの姿勢が自然と丁寧になる
- 「自分の仕事を見てもらえている」という実感が、誇りにつながる
SNSは、働く人にとっても「自分たちの仕事って、やっぱりかっこいい」と再認識できる自己肯定感の場になっているのです。
このように、藤岡木工所では、ただ写真を投稿するのではなく、「人の温度が伝わる発信」を重ねることで、実際の採用につなげています。
SNSでは、こんな投稿が人気だと私たちは考えています。
- 工場で木を削る若手職人の真剣な目
- 先輩が後輩に工具の使い方を教えている場面
- お客様と営業が笑顔で話しているショット
- 代表の「想い」を語るインタビュー動画
いずれも、「作っている人の姿」がちゃんと写っているモノです。
「人が見える投稿」を続けた結果、昨年はInstagramを見て職人志望の若者が2名入社。
「会社の雰囲気が見えて、安心して応募できた」という声もありました。
応募のきっかけは“共感”から始まる
今の若い世代は、働く前に会社の“人となり”を知りたいと考えています。
どんな商品を作っているかも大切ですが、「どんな人と働くのか」「どんな考え方を持っているのか」が、応募の決め手になります。ある若手応募者は、「投稿を見て、職人の仕事に憧れた」と話してくれたそうです。
このように、商品ではなく、“人”で会社を選ぶ時代になっています。
だからこそ、中小企業こそSNSを使って、“人となり”を見せるべきなのです。
「うちには見せるものがない」と思わないでください
「発信したいけど、見せられるようなかっこいいものがない」
「古い工場だし、おしゃれじゃない」
「若い社員も少ないし…」
そんな声もよく聞きます。ですが、藤岡木工所の投稿は、キラキラしたものばかりではありません。
むしろ、木くずが舞う工房や、静かに道具を整える職人の後ろ姿など、“リアル”が伝わるものばかりです。
見る人は、見た目のかっこよさではなく、「真剣に働く姿勢」に心を動かされます。
そこに共感が生まれ、信頼が芽生え、「この会社で働いてみたい」と思ってもらえるのです。
SNSが社内にもたらす“いい空気”
藤岡木工所では、SNSを通して社内にも良い影響が生まれたと言います。
- 自分たちの仕事が「世の中に伝わっている」と感じられる
- 職人同士が、お互いの努力に気づくようになった
- 若手社員が「自分たちの仕事はかっこいい」と誇りを持ち始めた
また、SNSの投稿をきっかけに、「最近、あの現場どうなったの?」と社内で声をかけ合うようにもなったとか。SNSはただの広告ではなく、社内のモチベーションアップにもつながる“育てるメディアなのです。
SNS発信は、良い人材と出会うための第一歩
現在、藤岡木工所では、SNSからの集客が9割以上。
採用にも、商品購入にもつながる強力なツールとして活用されています。今後は専任スタッフを採用し、これまで投稿を担当していた職人は製作に専念。発信力は、ますます強化されていきます。
また、2025年春には南青山に新ショールームがオープン。社会貢献活動にも力を入れ、子どもたちのための食事提供やボランティアの受け入れもスタート予定です。こうした取り組みもSNSで発信し、「想いのある会社」としてのブランディングにもつながっています。
最後に 、 SNSは“信頼を育てる場所”、そして“唯一無二を伝える舞台”
SNSは、派手な投稿やフォロワー数を競うためのツールではありません。
藤岡木工所が目指しているのは、「信頼される会社」として、“誰に・何を・どう伝えるか”を丁寧に考える発信です。その姿勢は、集客にも採用にも、そして社内の雰囲気づくりにも、静かに、でも確実に影響しています。

中小企業には、中小企業にしか出せない「魅力」と「強さ」があります。
大量生産では出せない、手のぬくもり。一人ひとりの顔が見える距離感。歴史や想いが詰まった製品づくり。それこそが、“大企業にはまねできない唯一無二の価値”です。
でも、その価値は、伝えなければ、伝わりません。
「うちは発信するようなものがない」と思っていませんか?
実はその言葉の裏にこそ、光るストーリーがあるのです。
現場で汗をかく職人の姿。お客さまと笑顔で話す営業スタッフ。10年後も使われるものを、今つくっているという誇り。そのすべてが、見る人の心を動かします。
SNSは、会社の“顔”になるだけでなく、未来の仲間と出会うきっかけにもなります。
発信を通じて、同じ価値観を持つ人材が集まり、やがて企業の力となるのです。
だからこそ、取り組みをはじめてみて欲しい。まずは、一枚の写真と、ひとことの想いから。
それが、あなたの会社の魅力を未来につなげる第一歩になります。
中小企業こそ、発信しよう。
その中にしかない、「本物の強み」があるのだから。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。