私たちの会社では全社員による「コンパス会議」を毎月1回定期的に開催しています。会議とはいえ、ただの報告や発表の場ではありません。この会議は、私が示した1年、3年、5年先の方向性に対して、社員一人ひとりが自分自身の計画を描き、実行し、その結果を共有するとても大切な時間です。
「コンパス」とは、進むべき方向を指し示す羅針盤のようなもの。私が描く未来に向けて、社員一人ひとりが自分自身のコンパスを手に持ち、どのように歩んでいくのかを考える。これが「コンパス会議」の目的です。

目次
「未来の自分」から始まる発表
この会議では、まず自分が1年後どうなっていたいのかという「仮説」を立てるところから始まります。目の前の仕事だけでなく、自分の仕事人生をどうつくるかという視点を持つのがポイントです。
次に、会社全体の方向性と照らし合わせながら、戦略的な観点で目標を深めていきます。「誰に、何を、どの地域で提供するのか」という問いに対し、各自がしっかりと答えを持ち、行動に落とし込むための計画を練ります。
そして最後に、それらを「わかりやすく伝える力」も大切にしています。自分の考えや取り組みをしっかり言葉にすることで、自分自身の理解も深まり、仲間にも影響を与えることができるのです。
計画は「やること」ではなく「道筋」
社員たちは、年初に立てた3ヶ月の計画を1ヶ月単位に落とし込み、その実践内容を発表しました。このとき大切にしているのが、「To Do」ではなく「計画」として話すことです。
「To Do」は与えられた仕事をこなすことですが、「計画」は自分が掲げた目標に向かってどんな道を歩んでいくのかを自分で考えること。自分で考え、自分で決めたことだからこそ、やりがいや責任感も大きくなるのです。
一人ひとりが主役の会議
今回のコンパス会議では、一人あたり約30分の時間を使って発表してもらいました。内容は以下の流れに沿っています。
- 仮説:1年後、どんな自分になっていたいか?
- 戦略:そのために、誰に・何を・どこで提供するのか?
- 計画:3ヶ月の中でどんな行動を予定したか?それを1ヶ月でどう実行したか?
- 実践内容:うまくいったこと、悩んだこと、やってみての手応えは?
- 気づき・課題・良かった点:学びや改善点、感じた成長など
社員たちは、「定量的(数字)と定性的(感覚)」の両面から成果を話してくれました。プレゼンの中には、自分の弱さを正直に語る姿もあり、真剣に向き合ってきた日々が伝わってきました。
仲間からのフィードバックが力になる
発表の後には、毎回仲間からのフィードバックの時間があります。この時間が本当に貴重なのです。
「自分では思いつかなかった視点があった」「こういうやり方もあるんだ」といった気づきがたくさんあります。ある社員は、「自分はコップの正面しか見ていなかったけど、仲間が横や裏側を見せてくれた」と話していました。
これはまさに、「全方向支援」の考え方です。評価ではなく、支え合い。社員一人ひとりが互いに応援し合う文化が、この会社には根づいています。
会社を継ぐということ、仕組みを残すということ
私には息子がいます。2029年には会社を継いでもらいます。「自由にやればいい」と思っています。ただ一つだけ、今のうちに社員が成長できる仕組みを残しておきたいと考えています。
事業承継とは、社長の座を譲ることではありません。会社の「考え方」や「文化」、そして「人が育つ仕組み」を引き継ぐことです。
私は「社員が育てば、会社は必ず伸びる」と信じています。だからこそ、こうしたコンパス会議をはじめ、教育や対話の場を大切にしています。
採用よりも、育成が大事
よく「若い人がすぐ辞めてしまう」「人が採れない」といった声を聞きます。でも、私たちの会社は27年間、離職ゼロです。これは奇跡ではありません。社員が安心して働ける、成長し続けられる環境をつくる努力を重ねてきた結果です。
新人にも、1年間かけて教育の時間をしっかりと取っています。共通言語を持ち、考える力を育て、仲間と共に支え合える関係性を築いていく。そうした丁寧な積み重ねが、離職ゼロにつながっているのです。
最後に:社長の仕事とは何か?
私は最近、あらためて考えるようになりました。社長の仕事とは、社員一人ひとりが成長するための環境をつくること。そして、その仕組みを次世代に引き継ぐことだと。
会社の経営を次に渡すこと、つまり事業承継は、単にバトンを渡すように社長の座を譲ることではありません。大切なのは、「社員が育ち、会社が自然と伸びていく仕組み」を次の世代に残すことだと私は思っています。
そのためには、後継者を育成し、教育していく環境が必要です。技術や知識だけでなく、人との関わり方、考える力、そして会社を支える「文化」そのものを伝えていくこと。
それが、私に与えられた大切な役割です。
「自由にやればいい」と私は息子に伝えています。ですが、“社員が育つ仕組み” だけは残したい。
それは会社にとって、どんな時代になっても変わらない土台になるはずです。
私たちのような小さな会社だからこそ、人が財産です。
これからも「社員が育つ仕組み」「支え合う風土」を大切にし、次の世代へ事業をつなぐ準備を一歩ずつ進めていきたいと思っています。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。