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ヒグチ鋼管・樋口社長インタビュー
― 事業承継は20年の時が必要 ―

2025年3月21日、ヒグチ鋼管株式会社は「第15回 日本でいちばん大切にしたい会社」大賞において、審査員特別賞を受賞しました。
その3日後の3月24日、受賞の余韻が残る中、私は樋口社長にお話を伺う機会をいただきました。
事業承継に向き合い続けてきた10年、そしてその先に見据える未来の10年。
社長の言葉には、ひとつひとつに重みと優しさ、そして力強さがありました。
受賞は通過点。これまでの10年を、これからの10年へつなげていく
―― まずは、受賞おめでとうございます。今のお気持ちはいかがですか?
「ありがとうございます。でも正直、感動というより“責任”を感じています。これはゴールではなくて、今までやってきたことを認めてもらった通過点。ようやくスタートラインに立てた、そんな気持ちなんです」
樋口社長は、少し照れくさそうに、でも静かにそう語られました。
事業は“人”で決まる。だから育てることに時間をかけた
ヒグチ鋼管では、2015年から本格的に事業承継に向けた取り組みが始まりました。
「事業って、商品や設備ではなく“人”が決めるんです。だから私は、事業承継は『人を育てていく時間』だと考えています。引き継ぎだけなら10年で終わります。でも、本当の承継には20年はかかる。そう思って、10年前から動き始めました」
そう語る社長の目は、まっすぐでした。
中小企業だからこそ、社員に“任せる”
―― 「事業は人で決まる」という信念のもと、時間と手間をかけて社員を育て、役割・権限・責任を持って働く文化をつくってこられました。
特に注目されるのは、給料や働き方、福利厚生までも社員が主体的に考えるという経営スタイル。これを実現するには、社員一人ひとりに深い知識と強い責任感が求められますが、ヒグチ鋼管では教育にも力を入れ、こうした文化を築いてきました。
「そうですね。中小企業の多くは、社長の権限で全てを決めがちです。でも、それでは社員は育ちません。役割を与え、権限を渡し、責任を果たしてもらう。これを地道に続けることでしか、真の人材育成はできないと私は想っています。最初はみんな戸惑っていました。でも、任せないと人は育たないんです。社長が全部決めていたら、いつまでも社員は“育てられる側”のまま。
何度も言いますが、だからこそ、役割を与えて、権限を渡して、責任を果たしてもらう。その環境をつくるのが、経営者の仕事だと思っています」
「ただ、実行するには知識も必要です。だから社員教育もずっと続けています。10年やって、ようやく“自分で考えて動ける人材”が育ってきたなと感じています」
勝ち癖とは、“信じてやりきること”
「私は“勝ち癖”って言葉が好きなんです。勝ち癖って、何かに勝つことじゃなくて、自分を信じてやりきる力。途中で諦めたり、『まぁいいか』と妥協する“負け癖”じゃ、成果は出ません」
「目標達成は勝ちぐせなのです。続けていけば必ずゴールへつながる。そう信じています」「まぁ、ほどほどでいいかという“負け癖”では、事業も人生も乗り切れません。自分の目標を信じて、やりきる力が必要です。信じること、そしてやりきること。これが“勝ち癖”なのです」
この「勝ち癖」は、会社の文化として社員に根づいており、日々の業務の中で育まれています。ただ成果を求めるのではなく、信じて努力を続ける姿勢が、事業を支える柱となっているのです。
未来はわからない。でも、だから考える
「未来って、どうなるかわかりません。会社が10年後どうなってるかなんて、正直、私にもわかりませんよ。でも、だからこそ一生懸命に考えなきゃいけない。楽観せず、慎重に、堅実に。それがヒグチ鋼管の姿勢です」
そう語る社長の言葉には、派手さはありませんが、地に足のついた強さを感じました。
出会いが、会社を変える
―― 今回の受賞をきっかけに、新しいご縁も増えそうですね。
「この賞を受賞したことで、“人を大切にする会社”に興味を持ってくれる若い方たちとのご縁が生まれると感じています。そうした価値観を共有できる人が仲間になってくれれば、きっと後継者としても育っていきます。」
このように、受賞は「過去の評価」だけではなく、「これからの人材との出会い」への希望にもつながっています。
「そうした価値観を持った若い人が入ってくれれば、考えを共有できる後継者として育っていくと思います。人材の採用と育成を続けていけば、事業は間違いなく続いていく。私は、そう信じています」
想いと数字を社員全員で共有する、6月の経営計画発表会
2025年6月21日には、ヒグチ鋼管の経営計画発表会が予定されています。
「数字だけじゃなく、“想い”も共有するのがうちのスタイルです。会社の未来は、みんなでつくっていくもの。そのためには、全員が同じ方向を向いていないといけない。だからこそ、こういう場が大切なんです」
そして9月、10年の歩みを語る場を
さらに今年10月には、NNAとのコラボ研修が開催する予定です。

「現場を見てもらい、社員の声を聞いてもらう。10年やってきた事業承継の取り組みを、正直に、まっすぐにお話しさせていただきます。そこからまた、何かの気づきやご縁が生まれたら嬉しいですね」
おわりに:人を信じ、人に託す。そんな経営を、これからも。
インタビューの最後に、社長はこんな言葉を残してくれました。
「うちのような小さな会社でも、人を信じる経営でここまでやってこられました。これからも、任せて、育てて、信じていく。そんな会社であり続けたいと思っています」
静かだけれど、どこまでも真っ直ぐ。
それがヒグチ鋼管という会社の根っこにある“人を大切にする”という価値観なのだと、心から感じた時間でした。
ありがとうございました。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。