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『もののけ姫』に登場するたたら場
先日、映画『もののけ姫』に登場するたたら場のモデルとされる場所を訪ねました。島根県雲南市の「鉄の歴史博物館」、そして奥出雲町にある菅谷たたら山内。

刀鍛冶が鉄を熱して叩き、刃物をつくる工程については、これまで資料館や映像などで何となく知っていました。
でも、その刃物の“材料”が、どのようにつくられているのか。ましてや、玉鋼(たまはがね)を生み出すまでにこれほどの手間と時間、そして命を懸けた作業があったことは、今回初めて知りました。
映像の中の炎と職人たち
博物館では、たたら製鉄の現場を収めた貴重な映像を拝見しました。真っ赤に燃え上がる炉の前で、火と向き合い黙々と作業をする職人たちの姿。激しい音も言葉もないのに、画面越しにひしひしと伝わってくる緊張感がありました。


中でも印象的だったのは、「窯出し」の瞬間です。炉の底にできる真っ赤に焼けた鉄の塊「鉧(けら)」。その2.5トンもある鉧を取り出し、「鉄池(かないけ)」と呼ばれる専用の冷却用水槽に沈めていくと、ものすごい音と蒸気が立ちのぼったそうです。高熱と粉塵に包まれた中で行われるこの作業は、一瞬の油断が命取りになるほどの重労働で、まさに命がけだったと聞きました。
そして、鉧がすべて水の中に沈んだ瞬間、職人の目に涙が浮かんでいました。その涙から、命と誇りと魂を注いだ日々の重みを感じました。
菅谷たたら山内で感じたもの
菅谷たたら山内には、日本で唯一、当時のままの姿を残す「たたら高殿(たかどの)」が現存しているそうです。高い天井、静けさに包まれた空間。その中央に佇む炉を見つめていると、博物館で見た職人たちの姿が重なって浮かび上がってきました。今もこの場所に彼らの気配が宿っているように感じられました。
ガイドの方からは、「山あいの冷たい風、砂鉄、水、木炭。自然の条件に恵まれていたからこそ、ここでは質の高い玉鋼が生まれ、長く作り続けることができたんです」と教えていただきました。


命を削る仕事
たたら製鉄は、命を懸けた鉄づくりだったそうです。
たとえば「鉄穴流し(かんなながし)」という砂鉄採取の工程では、山を崩して砂鉄を採る作業中に、風化した岩盤の下敷きになって亡くなる方も少なくなかったと聞きました。
たたらの操業に欠かせない炭焼きも、12トンもの木炭を作るために広大な森林を使い、山中での過酷な作業が続いたそうです。築炉に使う土選びに至っては、感覚と経験を頼りに山を歩き回り、最適な土を選び抜くという「神業」だったと言います。
そして始まる三昼夜の「たたら吹き」。70時間ものあいだ、30分おきに砂鉄と木炭を交互に投入し、鞴(ふいご)で風を送り続ける。それがどれほどの重労働で、どれほどの集中力を要するか、想像するだけでも気が遠くなります。


火は神様
村下(むらげ)と呼ばれる操業の最高技術者は、三昼夜ほとんど眠らず、炎の色や音、炉の変化を五感で感じ取りながらすべてを指揮するのだそうです。
現代の最先端技術でも解明できない「火の道」を読み取る、まさに超人的な能力の持ち主。その判断は一瞬の迷いも許されず、まさに人知を超えた技術と集中力が求められるのだと伺いました。

「火は神様みたいなもんですけぇ」
映像の中で村下が語ったこの言葉は、たたら職人の火への畏敬と覚悟を表しているようです。火はただの熱ではなく、命そのもの。人がそれに寄り添い、読み、向き合い続けていたのだと聞きました。
炉から生まれる奇跡
三昼夜を経て炉の底に現れるのが「鉧(けら)」という鉄の塊。この塊から、ようやく玉鋼が取り出されるそうです。選別された中で最高品質の「王鋼」は、わずか全体の3分の1ほどとも言われています。

「誠実は、美鋼を生む」
これは、たたらの世界に今も息づく言葉だそうです。火に誠実でなければ、よい鋼は生まれない。たたら製鉄は、技術というよりも生き方そのものだったのだと実感しました。


父と玉鋼
旅から戻った数日後、私は実家に帰省しました。そしてふと、父の書棚を開いたとき…そこに、あの「玉鋼」がありました。
木箱に収められた黒く輝く金属。まさか父が玉鋼を持っていたとは思わず、いつどこで手に入れたのか、母に聞いてもわかりませんでした。昨年、父は他界しました。そのことを確かめる術も、今はもうありません。


でも、火と向き合う人々の生き方に惹かれた私と、かつて同じように玉鋼を手元に置いていた父。その共通点が、嬉しく思いました。言葉を交わすことはできなくなっても、同じものに心を動かされていたということが、静かにつながりを教えてくれるような気がしました。
この小さな玉鋼は、火と人が生んだ奇跡であり、父の想いと私の記憶が交差する、かけがえのない存在です。これからも大切に、そばに置いておこうと思います。
投稿者プロフィール

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ランチェスター顧客維持戦略「内勤営業育成講座」講師
インサイド営業・内勤営業育成コンサルタント
脳科学のプログラム「メンタルラボ」認定講師
自己成長のプログラム「宝物ファイル」認定講師
出身:島根県安来市、高校時代バレーボールで国体出場
趣味:古い街並み巡り♪
大阪商工会議所各支部、組合•団体、企業にてパソコン講座の講師を5年経験。
コンテンツ制作を担当したHPがNCネットワークのHPコンテストで最優秀賞を受賞。
2018年より内勤者がお客様づくりの仕組みをつくり営業を支援する「内勤営業育成講座:全10回講座」を企画開講し現在も継続中。
高槻商工会議所様、大阪産業創造館様、大阪労働協会 osakaしごとフィールド様、一般社団法人 住生活リフォーム推進協会(HORP)様にて研修を担当
内勤営業育成コンサルタント 藤原 紀子
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