京都の町工場で見た、日本のものづくりについて視察レポートをお届けします。
山﨑内装工業株式会社を訪問しました。

山﨑社長とは、2025年に大阪産業創造館で開催した
「小さな町工場の営業戦略実践塾」
でご縁をいただきました。
当時、山﨑社長は受講生として参加され、私は講師として、町工場がどのように差別化し、どの市場で戦い、どのように価値を伝えていくのか戦略についてお話をしていました。
それから約1年後の2026年5月25日。
今度は実際に山﨑内装工業さんの工場を訪問し、実践塾の仲間たちとともに現場を見学させていただく機会をいただきました。
戦略を学ぶだけではなく、その戦略を現場でどのように形にしているのか。
今回は、山﨑内装工業さんのものづくりと挑戦についてご紹介したいと思います。
工場があるのは、京都府木津川市。
JR大和路線・木津駅から車で約10分ほど。
山と川に囲まれた自然豊かな場所に、織物ふすま紙・織物壁紙をつくる工場があります。
実は木津川市周辺は、織物でつくられたふすま紙や壁紙の全国シェア90%を誇る産地です。
そのルーツは、山城地区で昔から織られていた「蚊帳(かや)」や「麻・綿ふきん」などの織物に、紙を貼り合わせたことから始まったと言われています。
つまり、この地域の壁紙文化は、もともと“織物文化”から生まれているのです。
今回工場を見学させていただきながら、私は単なる壁紙工場ではなく、日本の織物文化を受け継ぎ、進化させている現場なのだと感じました。
今回の工場見学では、
・紙と生地を貼り合わせる裏打ち加工
・乾燥工程
・スリット加工
・品質検査
・海外向け壁紙
まで、現場を詳しく見学させていただきました。
目次
25メートルの裏打ち加工機
まず最初に見学した工程は、紙と生地を貼り合わせる「裏打ち加工」でした。
工場へ入ると、巨大な反物が、長い機械の上をゆっくり流れていました。

その長さは約25メートル。
しかし、ただ機械で貼り合わせているわけではありません。
織物は、季節によって状態が変わるそうです。
温度。
湿度。
その日の空気。
それによって、生地の伸び方が変わる。
だから、ローラーのスピードも変える。
夏と冬では、設定が違うそうです。
工場の中では、いくつもの扇風機が回っていました。
風を送りながら、湿度を調整している。
その空間の中で、職人さんが、生地の張りをずっと見続けていました。
織物は、もともと真っすぐではありません。
だから、重りを使ってテンションをかけながら引っ張る。
その重さも、職人の経験で決まるそうです。

強すぎてもだめ。
弱すぎてもだめ。
ほんのわずかな違いで、
生地の流れ方が変わる。
だから、職人さんは、目で見て、手で触って、微妙な張りを調整していく。

少しでもズレれば、壁紙として成立しない。
まさに真剣勝負。
職人の生地を「まっすぐ流す」ことへのこだわりが伝わってきました。
機械が自動で動いているように見えて、実際には、職人の感覚が支えている工程でした。
「馴染ませる」という考え方
さらに印象的だったのが、社長の一言でした。
「ローラーに巻かれた紙、触ってみてください」
そう言われて、実際に触れてみると、紙は少しウェットな状態でした。
乾いているわけではない。
しっとりしている。
そこで社長が静かに話してくれたのが、「馴染ませる」という工程でした。
糊は、固形分20%。
残りの80%は水分。
貼り合わせた直後の紙と生地は、まだどこか他人同士のようで、完全には一体になっていない。

ローラーが熱を帯びながら、ゆっくりと回転していく。
蒸気を上げながら、少しずつ、少しずつ、水分を飛ばしていく。
しかし、完全には乾かさない。
乾かしすぎれば、素材は固くなり、互いを受け入れなくなる。
だから、少し水分を残す。
時間をかけながら、紙と生地を馴染ませていく。
私は、その熱を帯びたローラーに巻かれた紙に触れた時、単に壁紙をつくっているのではないのだと感じました。
素材と素材が、互いを受け入れ、ひとつになっていく。
それはまるで、人と人が長い時間をかけて関係を育てていく姿にも、どこか似ているように思えました。
100度の巨大な乾燥ローラー
さらに圧巻だったのが、乾燥工程です。
巨大なローラーが、熱を持ちながら回転していました。
その温度は、約100度。
しかも、蒸気が回転するローラーから吹き上がっている。

私はその姿を見て、「まるで鯨みたいやな」と思いました。
巨大な生き物のように、工場の中でゴォーッと低い音を立てながら動いている。
その迫力に圧倒されました。
ローラーは、ゆっくりと回転していました。
まるで素材の声を聞くように。
紙と生地が、互いに無理をせず、少しずつ馴染み、ひとつになっていく。
工場の中で見たのは、「乾燥」ではなく、素材と対話する工程でした。
海外向け織物の壁紙は、とてもカラフルだった
工場では、海外向けの壁紙も見せていただきました。
それが、とてもカラフルだったのです。
日本の壁紙とは、まるで違う世界でした。
日本では、白やベージュ。
空間に馴染む色が好まれます。

どちらかと言えば、壁紙は「背景」です。
ところが海外では、壁紙そのものを楽しんでいる。
例えばアメリカでは、子どもの成長の節目ごとに、壁紙を張り替える文化があるそうです。
春になれば部屋を変える。
気分が変われば壁を変える。
DIY文化があり、自分の手で空間をつくっていく。
つまり、壁紙は単なる建材ではなく、暮らしそのもの。
だからデザインも自由です。
色が大胆。
柄も遊び心がある。
日本なら少し驚くような色使いでも、向こうでは自然に暮らしの中へ溶け込んでいる。
特に、海外向けにつくられた織物壁紙は、本当に面白かった。
織物の立体感に、鮮やかな色が重なる。
その姿を見ていると、「壁紙」というより、ひとつのアート作品のようにも感じました。
文化の違いとは、暮らしの違いなのだと思いました。
日本は、“馴染ませる文化”。
海外は、“楽しむ文化”。
同じ壁紙でも、そこに流れている暮らしの思想が違う。
だからこそ、山﨑内装工業さんの織物壁紙は、海外で新しい価値として受け入れられているのかもしれません。
私はその色彩を見ながら、「壁紙は建材ではなく、暮らしを表現するものなのだ」
と感じました。
和室市場縮小の中で、「織物文化」で戦うという戦略
また、山﨑内装工業株式会社では、OEM製品だけでなく、
自社オリジナル商品の強化にも力を入れていました。
背景にあるのは、
和室文化の減少です。
ふすま紙市場は、
年々縮小しています。
和室そのものが減っている。
つまり、
これまでと同じ市場だけを見ていては、
先細りになっていく可能性がある。
だからこそ今、
山﨑内装工業さんは、
“壁紙”としての新しい価値づくりへ挑戦されていました。
その中心にあるのが、

・織物の質感
・日本独特の素材感
・自然素材の価値
・高級感ある空間提案
です。
これは、単なる壁紙ではありません。
「空間の価値」そのものを提案しているのです。
特に今、山﨑内装工業さんが見据えているのは、
・リノベーション
・富裕層向け住宅会社
・自然素材志向の建築会社
・設計事務所
・インテリアデザイナー
といった市場です。
これはランチェスター戦略でいう、“局地戦”です。
大量生産の市場ではなく、価値を理解してくれる客層へ絞る。
価格競争ではなく、質感や文化で選ばれる市場を狙う。
これは、中小企業らしい取り組みだ。
実際、工場で見せていただいた織物壁紙は、量産クロスとはまったく違いました。
光の反射。
糸の陰影。
立体感。
触った時の質感。
それは、工業製品というより、“素材の表情”そのものでした。
私は、工場の中で、単なる壁紙づくりを見ていたのではないと思っています。
そこにあったのは、「織物文化を、次の時代へ残したい」という、山﨑社長の強い意志でした。
伝統を守るだけではない。
現代の暮らしへ合わせながら、
進化させていく。
その挑戦こそが、山﨑内装工業さんの最大の強みなのだと感じました。
工場見学で感じたこと
私の感想。
工場は、生きていた
今回の工場見学で、私は何度も、「工場って、生きているんやな」と感じました。
機械が動いている。
しかし、ただ動いているのではありません。
職人さんが、生地を見て、音を聞き、張りを感じながら、機械を動かしている。
その姿を見ていると、機械と職人が、長い時間を共にしてきた“相棒”のように見えました。
最新の全自動設備ではない。
けれど、そこには、人と機械が呼吸を合わせているような空気がありました。
品質検査室では、最後はやはり人の目で確認していました。
どれだけ機械化が進んでも、最後は人が見る。
そこに、山﨑内装工業さんのものづくりの姿勢を感じました。
ふと天井を見上げると、昔の機織り工場だった頃の梁が残っていました。
長い年月、この場所で織物が織られてきた。
その時間が、建物の中に静かに残っている。
私はそこに、“息吹”を感じました。
巨大なローラーが回る。
蒸気が立ち上がる。
反物が流れていく。
その流れを見つめながら、職人さんが微妙な調整を続けている。
まるで、生き物を扱っているようでした。
いや、工場そのものが、ひとつの生き物なのかもしれません。
張り。
湿度。
温度。
馴染ませる工程。
そのすべてが、一枚の壁紙を生み出していく。
私は今回、単なる工場見学をしたのではなく、“ものづくりの呼吸”を見せてもらったような気がしています。
現場へ行かなければ、見えないものがある。
人と会わなければ、わからないことがある。
山﨑内装工業さんの工場見学は、まさにそんな時間でした。
ランチェスター戦略で見る「山﨑内装工業の強みとは何か」
ランチェスター戦略では、資源に劣る小さな会社は、大手と同じ土俵で戦ってはいけません。
大量生産。
価格競争。
全国一律の商品。
そこでは、資本力のある会社には勝てません。
だからこそ必要なのが、「弱者の差別化」です。
今回、山﨑内装工業株式会社を視察させていただき、1位づくり戦略を実践する強い意欲を感じました。
1.商品戦略
織物文化という“他にない価値”
山﨑内装工業さんの最大の強みは、織物文化を持っていることです。
八千代織。
丹後ちりめん。
ジャガード。
普通の壁紙メーカーでは扱えない織物を、壁紙へ進化させている。
これは単なる商品ではありません。
「文化」
です。

しかも、量産クロスにはない価値があります。
・破れにくい
・立体感がある
・陰影がある
・高級感がある
・質感が深い
実際に量産クロスと比較すると、その違いは一目でわかりました。
価格競争ではなく、“価値で選ばれる壁紙”。
まさに、ランチェスター戦略の商品差別化です。
2.客層戦略
富裕層・設計士・自然素材市場へ
山﨑内装工業さんは、
大量住宅市場ではなく、
・リフォーム
・リノベーション
・富裕層住宅
・自然素材住宅
・設計事務所
・インテリアデザイナー
こうした市場へ挑戦されています。

これを、ランチェスター戦略では、「客層の細分化」といいます。
大手が取りにくい市場。
感性価値を理解してくれる市場へ、一点集中していく。
3.営業戦略
OEM依存から、自社ブランドへ
現在はOEM比率が高く、他社ブランドとして世の中へ出ていく商品も多いそうです。
しかし、それでは最終顧客の声が見えにくい。
どこで使われているのかも分からない。
今後は、
・多様な施工事例
・展示会用のサンプル制作
・絞り込んだInstagram発信
・設計士との直接的な接点づくり
こうした取り組みをより強化したいと考えられています。
流通依存からの脱却で「最終顧客との接点づくり」です。
ランチェスター戦略では、顧客と直接接点を持つ会社が強い。
4.ブランディング戦略
雑貨は“入口”である
今回、雑貨やアートパネル、茶筒缶なども見せていただきました。
しかし、これは単なる雑貨事業ではありません。
私は、
「織物文化を知ってもらう入口」
だと感じました。

京都伊勢丹で販売されている「京織 紡ぎ茶缶」
まず興味を持ってもらう。
そこから、壁紙へつなげる。
企業の挑戦する姿勢そのものが、ブランドになっているのです。
まとめ
中小企業は“文化”で勝つ時代へ
今回の工場視察を通して、改めて感じました。
これからの中小企業は、
規模ではなく、
「文化」
で勝つ時代だということです。
大量生産ではなく、価値。
価格ではなく、物語。
効率ではなく、質感。
山﨑内装工業さんは、織物文化を武器に、未来の壁紙市場へ挑戦されていました。
その姿は、まさにランチェスター戦略の「弱者の戦い方」そのものだと感じました。
今後の挑戦が、とても楽しみです。
私について、
埋もれた技術価値の発掘者
私の仕事は、埋もれた技術価値を掘り起こし、必要とする企業との出会いをつくることです。
世界に誇る技術を持ちながらも、まだ見つけられていない町工場は数多くあります。
技術がないのではありません。
埋もれてしまっているのです。
私は、そんな企業の価値を整理し、編集し、必要とする企業へ届ける仕組みづくりを行っています。
展示会、DM、SNS、WEB。
それぞれを単独で考えるのではなく、一つの営業導線として設計し、技術価値が正しく伝わる流れをお客様とともに構築していきます。
その取り組みの中で、お客様とともに上場企業からの試作相談や大手企業の研究開発案件、さらには世界企業との新たな出会いを経験してきました。
私がつくりたいのはホームページではありません。
営業の仕組みでもありません。
本当に実現したいのは、世界に誇る技術を持つ企業が、その価値を正しく評価してくれる企業と出会うことです。
町工場には、まだ世の中に知られていない技術があります。
世界には、その技術を探している企業があります。
しかし、その間には見えない壁があります。
私は、その壁を越えるお手伝いをしています。
技術を発掘し、価値を編集し、必要とする企業へ届ける。
そして、新しい出会いを生み出す。
それが私の使命です。
私は、世界に誇る技術を、世界が求める価値へ翻訳することを仕事にしています。
もし、あなたの会社にも埋もれた技術価値があると感じるなら。
埋もれた技術価値は、外から見つかるものではありません。
まずは経営者自身が、その価値に気づくことから始まります。
あきない実践道場は、
自社の価値と向き合い、
1位づくりの仮説を育てる場所です。
あなたの会社の未来を変える技術は、
まだ見つかっていないのではなく、
すでに会社の中に眠っているのかもしれません。
文責 1位づくりコンサルタント 佐藤元相
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。
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