会社の歴史も、人との出会いも、自分の想いも。いつかではなく、“今”だからこそ言葉にして残す。
その先に、確かな継承がある。

月初めの土曜日、私と息子の特別な時間があります。還暦を迎え62歳になった私と、動画撮影や編集が得意な息子(31)とで取り組んでいる「還暦社長シリーズ」の収録日です。
私は話し手として、会社を立ち上げた想いや、支えてくれた人たちとの思い出を語り、息子はそれを撮影し、編集します。
もともとは、ほんの軽いお願いから始まりました。
「ちょっと、週末に手伝ってくれへんか?」
今から約1年半ほど前、週末のアルバイト感覚で声をかけたのが、この取り組みのスタートでした。
でも、その小さなきっかけが、親子の絆を深め、そして事業承継のきっかけとなり、未来の事業のかたちさえ変えていくものになったのです。
目次
想いを形にしたくて始めた動画制作
私はこの会社を、ゼロから立ち上げてきました。
うまくいかない日々も、人に助けられながら前に進んできた年月も、誰に話すでもなく心にしまってきました。
けれど、ある日ふと思ったのです。
「このままでは、私の想いは誰にも伝わらないまま終わってしまうかもしれない。」
そんな思いから、私は一枚の「曼荼羅(まんだら)シート」をつくりました。
なぜ動画をつくるのか。どんな内容にするのか。誰に向けて話すのか。
すべての想いを書き出して、息子に見せました。
『「社長になったお父さんが、息子に想いを伝える」それがこの動画のコンセプト』
そして、息子もまた、企業YouTuberとして活躍していた時期だったので、快く手伝ってくれることになったのです。
息子の目線から見た「父の背中」
撮影や編集を重ねる中で、私はある日、息子に聞いてみました。
「この取り組み、楽しいか?」
すると彼は、「もちろん」と答えてくれました。
「お父さんがどうやって会社を作ってきたか、どんな人と出会って、どんな想いでやってきたのか。そういうのがよく分かるから、すごくおもしろい。楽しいよ。」
息子にとっては、これまで聞くことのなかった「父の物語」に触れる時間。
そして私にとっては、「自分の人生を語りながら、次の世代に橋を架ける時間」になったのです。
編集の作業は決して楽ではありません。
動画を何度も見返し、テロップをつけ、テンポを調整し、視聴者に伝わるよう工夫してくれる。
でも息子は「そこまでしてこの会社があるのか・・・、あの人との出会いはこんなことがきっかけだったんだ・・・って、毎回、発見がある」と言ってくれます。
フォロワー1万人。けれど数字以上の喜びが
私たちのInstagramのチャンネルは、気がつけばフォロワー1万人を超えていました。
もちろん、それは嬉しいことです。けれど、本当の喜びは、私の息子の関係がどんどん深まっていったことでした。
「父と息子」という枠を超え、「人生の仲間」としての対話が始まったのです。
撮影の前に、2時間かけてシナリオについて打ち合わせをします。
「この表現だとちょっと伝わらないなぁ。ここにいたる背景をいれよう」
「ここに体験、エピソードを入れると、もっと伝わると思う」
そんなふうに、息子が私の言葉を丁寧に読み取り、アドバイスをくれます。
私はそれが嬉しくて、すぐにシナリオを修正する。
そのやり取りの中に、私たち親子の“絆”が育まれていったように感じています。
忘れられないInstagramライブ
ある日、私たちは初めてInstagramでライブ配信を行いました。
時間は約60分。多くの方々が画面の向こうで見てくれていました。
どのような構成にするのか、観て頂く人にお届けできることは何か?事前に打ち合わせました。Liveはお互いの想いや経験を“リアルな言葉”で語り合ったのです。
そのライブは今でもアーカイブに残っていて、私にとってはとても大切な記録です。
あの時間は、まさに「作り物ではない、本物の対話」でした。
記録が残るということは、未来への“手紙”のようなもの。
それは、私がいつかこの世を去ったとしても、息子や誰かが見て、私の想いを受け取れるということ。
すべての社長へ、すべての後継者へ
今、日本中には後継者不足に悩む社長さんがたくさんいます。
また、親子関係がうまくいかず、なかなか想いを伝えられない方も多いでしょう。
でも、最初の一歩は小さくていいのです。
「週末、ちょっと手伝ってくれへんか?」
「一緒に動画を作ってみないか?」
「ライブ配信、やってみないか?」
そうした小さな声かけが、未来への扉を開く鍵になるのです。
後継者育成とは、経営のノウハウを教えることだけではありません。
「想い」を共有し、「人」としての対話を重ねることこそが、その本質だと私は信じています。
採用にも活きる「社長の物語」
この取り組みを通して、私たちは「社長の願望伝授動画」という新しいサービスを始めました。
事業承継を見据えた社長が、自分の想い・感謝・人生の哲学を動画で残す。
それは、事業承継だけでなく、採用活動にも大きな力を持つと考えています。
求人情報では伝えきれない「社長の人柄」や「会社の想い」が、動画を通してリアルに伝わる。
それは、応募者の心に響き、さらにはその親御さんにも安心感を与えるのです。
「この社長のもとで働いてほしい」
「この会社なら、きっと大丈夫」
そんな声が届くようになったのも、この取り組みの大きな成果の一つです。
最後に
私は、息子と過ごすこの時間を「共育」と呼びたいと思っています。
教える・教わるという関係ではなく、共に学び、共に成長していく時間です。
そして、動画やライブに残された言葉や姿は、未来に生き続けます。
私がいなくなったあとも、私の想いは残ります。
そして、受け取った息子がまた次に繋げていきます。
「私がいなくなっても、想いは残る」
この言葉が、すべての後継者と、すべての社長の心に届きますように。
息子からのメッセージ
最初は、ただのお手伝いのつもりでした。
動画の撮影や編集ができるから、父の話を記録するだけだと思ってた。でも、回を重ねるうちに、父の中にある想いや、これまでの努力、支えてくれた人たちへの感謝…そういう「人生の深み」が見えてきたんです。編集のときは、父の話を何度も聞き直します。
毎回、言葉の裏にある「想い」に気づかされます。
父がどうしてこの会社を守りたいのか。
なぜ、人とのつながりをそんなに大切にしているのか。それが今の自分にとって、本当に大きな学びになっています。
この取り組みが、誰かの親子関係を変えるきっかけになったり、社長さんたちの想いを未来に伝える手助けになったら嬉しいです。
そして何より、自分の父親を“尊敬できる存在”として見られるようになったことが、僕にとって一番の財産です。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。