ある晩、事務所のカウンターで、レゲーの神様 ボブ・マーリーの音楽を聴きながら、水割りを飲んでいました。息子と二人で、未来について語り合っていたときのことです。
「俺な、こんな場所をつくりたいねん」
そう言って、息子はリュックサックから折りたたんだコピーの裏紙を取り出しました。
そこには、鉛筆で描かれたひとつの「場」のイメージ。大人と子ども、障がいのある人もない人も、農業の人も製造業の人も、みんなが集まって笑顔になっている風景でした。
決して上手な絵ではありませんでした。けれど、その紙には、「思い」と「愛」がありました。
息子は「ボクはこんな場を創りたいとずっと想って大切にしていたんだ」と言いました。その目を見れば本気だと分かりました。
私はそのとき「一緒にやろう。俺もその未来を一緒につくりたい」と息子の目を見て伝えました。
目次
息子が農業に惹かれた理由
息子は今、「農業支援」というコンセプトのもと、「じゃむせ」というYouTubeチャンネルを立ち上げています。
この活動では、関西の都市型農家の方々のご協力を得ながら、SNSを通じて全国の農業者とつながり、農業の魅力や作り手の思い、生き方に焦点をあてた発信を続けています。
この取り組みのきっかけは、彼が25歳のときにオーストラリアで農業に従事した経験にあります。
広大な自然の中で、土に触れ、人と向き合いながら働く中で、「農業とはただ作物を育てるだけではなく、“人の生き方そのもの”なんだ」と深く感じたそうです。
この体験が彼の中に強く残り、帰国後もその思いを抱き続けてきました。そして今、それをかたちにしたのが「じゃむせ」という活動です。

農業の魅力や思い、作物にかけるこだわり、そして働く人たちの生き方などをテーマに、現場へ出向き取材をして、日々発信を続けています。その取り組みは、実際に多くの農業経営者から強い共感と支持を集めています。
「自分たちのやっていることに光を当ててくれてありがとう」
「うまく言葉にできなかったけど、代弁してくれてうれしい」
そういった声が、彼の元には届いていることは私も誇りに感じています。
彼は、ただ農業を紹介しているのではありません。
農業の背景にある「人の思い」を伝えているのです。
それが彼の“仕事観”であり、“使命”なのです。
「事業を継ぐ」から「未来を創る」へ
私はこれまで、日本の製造業を支えていくことを使命として歩んできました。
小さな会社の強み、職人の技、ものづくりの誇り。
それを守ることに、全力を注いできたつもりです。
しかし、息子との対話のなかで、新しい視点が生まれました。
私たちが継いでいくべきなのは、「やり方」や「ノウハウ」だけではない。
もっと大きな、「未来をどう創っていくか」という方向性(=大局)を共に描いていくことが、これからの事業承継の本質なのだと、強く感じたのです。
4年間は、人格を育てる時間にしたい
私は4年後に会社を息子に引き継ぎます。
しかし、その4年間は、ただの引き継ぎ期間ではありません。
息子の佐藤大将が経営者としての人格を育てていく時間です。どんな判断をするのか。どう人と関わるのか。何を大切にするのか。それを学び、悩み、考えながら、少しずつ「自分のスタイル」を育てていく。
そしてそれは、私と息子が「ともに目指す未来」を見つめ、共有できていればこそ実現するものだと信じています。
人は、大きなビジョンに触れたとき、自分を磨きたくなる。
誰かと「同じ夢」を見られたとき、人は強く優しくなれる。

私は息子の未来を信じている。だからこそ全力で支えて行きたい。私にも新たな願望が芽生えました。「一緒に未来を創ろう」
事業承継がうまくいかない理由とは?
私のまわりにも、事業承継に悩む経営者は少なくありません。
うまくいかないケースには、いくつかの共通した要因があります。
後継者の育成不足
後継者が決まっていても、経験や覚悟が育っていないままでは、いざ引き継いでも自信が持てず、周囲からも信頼を得にくくなります。
未来像の不一致・共有不足
親が見ている「過去からの延長」と、子が描いている「これからの未来」にズレがあると、方向性が定まらず、迷いや不安が生まれます。
社内外の信頼形成が足りない
「誰が」「なぜ」「どんな思いで」次を担うのかが伝わっていないと、社員も取引先も不安になります。それは後継者にとって、大きな重荷になります。
後継ぎと共に歩んでいくカギは「未来を共に描くこと」
結局のところ、事業承継で大切なのは、「ともに描く未来」があるかどうかだと私は考えています。
そしてその未来へ向けて人間としての器を大きくしていく。人格を磨いていく。人との関わりから磨かれていく。やり方や技術の継承は、むしろあとからついてくるのだと想っています。
だから私は、息子と対話を続けています。
彼が農業に魅力を感じた理由も、地域の人との関係を大切にしたいという気持ちも、じっくりと聞いて受け止めていきたい。「お前の見ている未来を一緒に創りたい」と伝えました。
最後に伝えたいこと
あのとき、彼が裏紙に描いた、笑顔あふれる「場」の絵。
それは、不器用だけどまっすぐな願いが詰まった未来の設計図でした。
その絵に、私のこれまでの経験や知識、人脈をを重ね合わせれば、もっと多くの人が集える場所になるかもしれない。私たち親子にしか創れない世界が、きっとあると信じています。
事業承継がうまくいかない一番の理由――それは、明確な未来像を共有できていないことです。
継ぐべきなのは、技術でも、モノでもない。未来へつないでいく「想い」なんだ。引き継ぐべきなのは、役職ではなく「未来を創る力」。
だから、私は息子にこう伝えたい。「共に創ろう。みんなが笑顔になれる未来を」
あなたは、誰と、どんな未来を創りますか?
その問いに向き合うことから、真の事業承継は始まるのだと思います。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。