事業承継は、経営者にとって避けては通れない課題です。

私もまた、60歳を過ぎた頃から「この会社をどうするべきか」と真剣に悩むようになりました。私はゼロからコンサルティング会社を立ち上げ、「中小企業を元気にしたい」「製造業を活気づけたい」という想いで走り続けてきました。社員は5名ほどの小さな会社ですが、ランチェスター戦略を軸に事業モデルを築き、一定の業績を残してきました。
しかし、私はいつまでも社長でいられるわけではありません。誰にこの会社を引き継ぐのか——それが大きな課題でした。
まず考えたのは、社員に継いでもらうこと。しかし、社員たちは皆それぞれの役割を果たしているものの、経営を担う覚悟があるのかは分かりませんでした。また、M&Aという選択肢もありましたが、私はどうしても踏み切れませんでした。なぜなら、この会社は単なる「事業」ではなく、私の人生そのものだったからです。
そして、息子のことが頭をよぎりました。
彼はすでに独立し、企業向けYouTube事業で成功を収めていました。自分の道を切り開き、確かな成果を出している。そんな息子に「継いでほしい」と言うのは、私のわがままではないか? 彼には彼の人生がある。そう思うと、なかなか声をかけることができませんでした。
過去に何度かそれとなく話をしたこともありましたが、彼は真剣に受け取ってくれませんでした。「またこの話か」と思われるのが怖くて、私は次第に口に出せなくなっていったのです。
「このまま誰にも引き継がず、会社を畳むべきなのか?」
「それとも、やはり誰かに継いでもらうべきなのか?」
事業承継についての悩みは尽きませんでした。
目次
「還暦社長」動画のスタート!息子との共創の始まり
そんな中、私は「還暦社長」という動画を撮り始めました。事業承継のためにというよりは、自分の人生の記録として。これまでの経験、迷い、決断、そして大切にしてきた価値観を語り、残しておきたいと思ったのです。
その動画の撮影・編集を担当してくれたのが、息子でした。
私がシナリオを書き、それを息子に渡す。彼はそれを読んで、意見を言い、疑問を投げかける。
「このエピソードはもっと詳しく話したほうがいいんじゃない?」
「ここはこういう表現のほうが伝わると思う」
「なんでこの時、そんな決断をしたの?」
そうしたやり取りを通じて、私の考えはどんどん深まり、シナリオも膨らんでいきました。
最初は「私が伝えたいこと」を形にするだけのつもりでした。しかし、動画を作る過程で、息子と何度も対話を重ねるうちに、それは単なる映像制作ではなく、「共に考え、共に作り上げる時間」になっていったのです。
息子との対話が事業承継の扉を開いた
これまで、私は息子と仕事について深く語り合うことはありませんでした。彼は彼の道を進み、私は私の道を歩む。それが当たり前だと思っていました。
しかし、こうして動画を作りながら対話を重ねるうちに、私はふと考えるようになりました。
「もしかすると、息子はこの動画を通じて、私の想いを感じ取っていたのではないか?」
私は何度か直接「事業を継いでほしい」と伝えましたが、その時は届きませんでした。でも、動画という形で私の想いに触れ続けることで、彼の中で何かが変わったのかもしれない。
そして、ある日、息子から「ちょっと話がある」と言われました。
お正月、家族で旅行に出かけた際、宿泊先のベランダで2人きりになりました。私はいつものように言いました。

「同じことをやらなくてもいい。自分のやりたいことをやったらいい」
すると、息子は静かに口を開きました。
「実は、俺もやりたいことがある」
私は驚きました。でも、それと同時に、確信しました。
この動画を通じて、彼は私の想いを受け取ってくれていたのではないか。
私が何度も直接話しても伝わらなかったことが、動画という形でじっくりと伝わっていたのかもしれない。
そして私は言いました。
「だったら、一度一緒にやってみないか?」
この一言が、事業承継の第一歩となりました。
事業承継は「対話」と「共創」から生まれる
私は、事業承継は「会社を誰に引き継ぐか」ではなく、「どう伝え、どう共有するか」が大切だと考えています。
動画制作という形で、私は息子と共に時間を過ごしました。それは、単なる映像作りではなく、お互いの考えや価値観を深く知る機会だったのです。
すぐに答えが出なくても、まずは「対話」を始めること。そして、それを継続すること。
息子と共に動画を作る中で、私はその大切さを実感しました。そして今、私は息子に聞いてみたいと思っています。
「あの時、俺の動画を見て、どんなことを感じていた?」
事業承継は、対話と共創から生まれる。
私は、そう信じています。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。