読み物

佐藤元相のオフィシャルブログ

1位づくり戦略コンサルタント 佐藤 元相

「問い」が社員を育て、組織を強くする。平安女学院の哲学対話に学ぶ町工場の人材育成

NHKの番組を観て。哲学対話との出会い

2025年1月9日、私はNHKの番組を観て衝撃を受けました。そこでは、京都市の平安女学院高等学校に新設された単位制コース「ミルトスコース」が紹介されていました。

ミルトスコースは、学校に行きづらさを感じる子どもたちが安心して学べる場として設けられ、学びの楽しさを取り戻すためのさまざまなプログラムが用意されています。その中でも特に印象的だったのが、大学講師・菱田生駒(ひしだ いこま)先生が行う「哲学対話」の授業でした。

NHK放送/平安女学院
2025年1月9日NHK「おはよう関西」

授業の中で、高校生たちは自由に意見を交わし、率直な思いを語り合っていました。その姿を見て、「私も体験してみたい!」という気持ちが抑えられず、すぐに知人に連絡を取りました。すると、その知人が偶然授業に参加していることがわかり、「一緒に行きませんか?」と誘ってくれました。こうして、1月22日、私は念願の哲学対話の授業に参加することになりました。


高校生が主体となる「哲学対話」の授業

授業が始まると、最初に行われたのは自己紹介と「今日の気分」を一言で表すワークでした。生徒たちはパンを食べながら、リラックスした雰囲気の中、自分の気持ちを素直に語り合っていました。

この授業の特徴は、高校生が司会を務め、進行を自分たちで行っていることです。司会の高校生は、「あなたのストーリーを聞かせてください」と問いかけ、参加者それぞれが自分の経験や考えを語る場をつくっていました。

菱田先生は、「質問するときは相手をリスペクトして、問いを投げるといいよ」と優しく伝えていました。その言葉を受けて、生徒たちは相手の話に真剣に耳を傾け、思いやりを持った言葉で質問をしていました。

授業の終盤には、「親戚(ゲスト)の方を案内してあげてね」という菱田先生の声かけで、高校生たちが私たちをグループに分けて校舎の中を案内してくれました。立ち話をしながら、「大学ってどんなところ?」「将来どんなことがしたいですか?」といった軽い話題から、深い話へと自然に進んでいきました。そのとき、立ち話は互いの気持ちをリラックスさせて対話が弾みやすくなるなぁと感じました。

このように、高校生たちはただ授業を受けるだけではなく、自らが授業の主体となり、他者との対話を通じて学びを深めているのです。


哲学対話の力を職場に。町工場での可能性

この哲学対話の体験を通じて、私は「対話」の力が教育現場だけでなく、職場にも活かせるのではないかと考えました。特に、日本の町工場のような現場では、哲学対話を取り入れることで、社員同士や外部の人との交流を深め、活性化を図る可能性があるのではないかと感じたのです。

日本の町工場は、地域に根ざした生産活動を続けながら、近年は工場見学や体験イベントを積極的に受け入れる取り組みを行っている企業も増えています。これは、ものづくりの現場を広く知ってもらうことで製品や技術への理解を深め、地域や社会との関係を築くための重要な活動です。

しかし、見学者を受け入れる際、ただ工場を案内し、製造過程を説明するだけでは表面的な理解で終わってしまうことがあります。そこで、工場見学の場に「哲学対話」の手法を取り入れることで、見学者と社員が互いに思いを共有し、深い交流が生まれるのではないかと考えました。

例えば、見学者に対して「この製品を作る仕事で一番大切にしていることは何ですか?」「あなたがこの仕事を続けている理由は何ですか?」といった問いを投げかけ、社員が自分の考えや体験を語る。その後、見学者がそれについて感想や質問を投げかけることで、単なる製品や技術の説明を超えた「人と人」との対話が生まれます。


哲学対話がもたらす職場の活性化

社員と見学者が対話を通じて互いの考えを共有することで、町工場にどのような変化が生まれるのでしょうか。

  1. 社員のモチベーション向上
    日々の業務に追われていると、目の前の仕事が単なる「作業」になってしまうことがあります。しかし、自分の仕事について語る機会を持つことで、改めてその価値を認識し、誇りを持てるようになります。
  2. 外部の視点からの刺激
    見学者からの質問や感想を受けることで、社員が「当たり前」だと思っていたことが、新しい価値を持っていることに気づくことがあります。これは、仕事の新たな可能性を見出すきっかけにもなります。
  3. 社内コミュニケーションの向上
    哲学対話を取り入れることで、社員同士の会話の質が向上し、より円滑なコミュニケーションが生まれる可能性があります。特に、世代間のギャップを埋める場としても有効です。

実際に取り入れるための工夫

哲学対話を町工場で導入する際には、以下のような工夫が考えられます。

  1. 短い時間から始める
    町工場の業務は忙しく、長時間の対話は難しいかもしれません。そこで、たとえば「1日10分間だけ、問いを持つ時間を設ける」といった方法で、朝礼などの場で小さく始めるのが現実的です。
  2. 見学者との対話を設ける
    工場見学の際、見学者が単に説明を聞くだけでなく、社員と自由に意見を交わせる場を設けることで、哲学対話のエッセンスを取り入れることができます。
  3. ファシリテーターを配置する
    対話の進行役を社員の中から選び、研修を通じてスキルを身につけてもらうことで、よりスムーズな実施が可能になります。

おわりに――哲学対話が職場にもたらす未来

哲学対話は、ただ言葉を交わすだけでなく、互いを尊重し、相手の話に耳を傾けながら、自分自身の考えを深めることができる手法です。

工場見学や外部交流の場で、ぜひ哲学対話を取り入れてみてください。新しい発見とつながりが生まれ、町工場がより魅力的な存在として地域や社会に根ざしていくきっかけとなるはずです。

事業承継の教育に関わるご相談はこちらから

投稿者プロフィール

佐藤元相
佐藤元相
1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。

著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。
instagram Youtube

お問い合わせ・ご相談

NNA株式会社

大阪市北区天神橋3-2-10 スリージェ南森町ビル2階
TEL: 06-6355-5546
E-mail: webmaster@nna-osaka.co.jp

お問い合わせフォーム
PAGE TOP