読み物

佐藤元相のオフィシャルブログ

1位づくり戦略コンサルタント 佐藤 元相

価格交渉戦略:下請け町工場の未来を切り拓くために

2024年度の最低賃金が、全国加重平均で51円引き上げられ、時給1055円になることが決まりました。これは、前年度の43円を上回り、過去最大の上げ幅です。10月から各都道府県で順次適用され、町工場を含む多くの事業者にとって、この変化は大きな影響を及ぼすことが予想されます。

2024年7月24日 日本経済新聞より

町工場の抱える現状と課題

ある下請け町工場の社長から相談がありました。「町工場の多くは、先代から受け継いだ仕事を続けています。しかし、その多くが価格据え置きのままであるため、時代と共に増加する経費に対して利益を確保することが困難になっています。特に、今回の最低賃金引き上げは、賃金コストを一層押し上げるため、適切な対応が必要です。

また、従業員からは、低価格の仕事が増え続けることに対して不満の声が上がっており、これが経営へのプレッシャーとなっています」と。経営者としては、このような状況を打破する必要があります。また、持続可能な経営を実現するため、新しいビジネスモデルへの転換が求められています。

最低賃金引き上げの影響

今回の最低賃金引き上げは、特に人手不足や物価上昇に対応するために、全国的に実施されるものです。27県が人手不足や物価上昇への対応で50円の引き上げ額に上乗せを決定しており、町工場の経営に与える影響はさらに大きくなるでしょう。さらに政府は、2030年代半ばに全国平均で最低賃金を1500円にする目標を掲げており、これからも賃金の上昇傾向は続くと予想されます

価格交渉の重要性

このような状況において、価格交渉は非常に重要な役割を果たします。単に価格を引き上げることが目的ではなく、粗利益をどれくらい確保したいのかを考え、それに基づいて適切な価格設定を行うことが求められます。これにより、従業員の賃金を引き上げるための原資を確保することが可能になります。

ここでは、下請け加工業における効果的な価格交渉戦略を、以下のステップで紹介します。

ステップ1: 固定費の把握と目標利益の設定

まず、会社が持続的に運営できるようにするためには、固定費目標利益をしっかりと設定することが必要です。

  • 固定費の把握: 人件費、光熱費、設備の維持費など、毎月確実にかかる費用を一覧化し、その総額を計算します。今回の最低賃金引き上げに伴う人件費の増加も、この固定費に加味する必要があります。販促経費や研修経費、研究開発費なども含めて固定費としてまとめるといいでしょう。
  • 目標利益の設定: 会社が成長し、投資を行うために必要な利益額を決めます。ここで考える利益は、経営者の報酬や将来の設備投資、予備費用などを含めた額です。

ステップ2: 必要な粗利益額の算出

次に、設定した固定費と目標利益を確保するために、どれだけの粗利益が必要かを算出します。

  • 粗利益額の算出: 以下の式で算出できます。
    必要な粗利益額=固定費+目標利益 例えば、月の固定費が120万円(最低賃金引き上げによる増加分を含む)、目標利益が50万円の場合、必要な粗利益額は170万円となります

ステップ3: 現在の粗利益と必要額の比較

現在の工賃による粗利益が、ステップ2で算出した必要な粗利益額に対してどのくらい不足しているかを確認します。

  • 粗利益の不足額の確認: 現在の工賃で得られる粗利益と、ステップ2で計算した必要な粗利益額を比較し、その差額を把握します。 もし不足している場合は、その不足分を埋めるために、どれくらいの単価引き上げが必要かを次のステップで計算します。

ステップ4: 値上げ単価の計算

不足している粗利益を補うために、どれくらいの値上げが必要かを計算します。

  • 値上げ単価の計算:

    例えば、1ヶ月で100時間の加工時間があり、必要な粗利益額が170万円の場合、新しい単価は170万円を100時間で割った17,000円/時間となります。

ステップ5: 顧客への提案と交渉

最後に、新しい単価を基に顧客に値上げを提案し、交渉を行います。この際、以下のポイントを押さえておくと良いでしょう。

  • 根拠の提示: 値上げの背景として、人件費の増加や電気代の高騰、設備維持のための費用増加など、具体的な数字やデータを提示します。
  • 資料の用意: 国のガイドラインや業界の人件費データなど、公的な資料を準備し、説得力を持たせます。

ステップ6: 定期的な見直し

価格交渉が成功した後も、定期的に固定費や利益率を見直し、適宜価格改定ができるようにしておきます。経済状況やコストの変動に対応できるよう、一年に一度は見直しの場を設けることをおすすめします。

研究開発型への業態転換

町工場が下請け型から脱却し、研究開発型へと業態を変えることは、経営の新たなステージを迎えるための鍵となります。研究開発型にシフトすることで、より付加価値の高い製品やサービスを提供でき、単価アップの交渉もよりスムーズに進む可能性があります。

また、こうした新しい取り組みは、従業員のモチベーション向上にもつながり、全体的な生産性を高めることができます。

最後に

価格交渉は町工場の将来を左右する重要な戦略です。現状をしっかりと把握し、適切な価格設定と交渉を通じて、持続可能な経営を実現することが求められます。また、研究開発型へのシフトは、町工場がこれからも生き残り、さらなる成長を遂げるための重要なステップとなります。

これらのステップを踏むことで、確実に必要な粗利益を確保しつつ、顧客との信頼関係を保ちながら値上げを実現できるでしょう。価格交渉は一度きりではなく、継続的に行うことが成功の鍵です。価格交渉のプロセスを踏みながら、新しい業態へと転換し、未来を切り拓いていくことを目指しましょう。

投稿者プロフィール

佐藤元相
佐藤元相
1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。

著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。
instagram Youtube

お問い合わせ・ご相談

NNA株式会社

大阪市北区天神橋3-2-10 スリージェ南森町ビル2階
TEL: 06-6355-5546
E-mail: webmaster@nna-osaka.co.jp

お問い合わせフォーム
PAGE TOP