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1位づくり戦略コンサルタント 佐藤 元相

お客さまの声がつなぐ“70年のご縁”パイン株式会社・井守広報部長に学ぶ「聞く力」と“里帰りしたパインアメ缶”の物語

2025年10月6日、「パイン株式会社 滋賀工場」の視察を行いました。職場体験を通して“躍進する企業の取り組み”を学ぶことを目的としました。

当日は、工場見学のあと、広報部長の井守さん、会長の上田豊さんにお話を伺い、お客さまとのつながりを大切にするパイン株式会社の姿勢を知ることができました。その中心にあったのは、「お客さまの声を聞く力」でした。まずは井守さんのお話です。

「懐かしいですね」から始まった挑戦

井守さんがSNSを担当するようになったのは2010年のことです。
当時、事務職を担当していた井守さんが「どこで働いているの?」と聞かれ、「パインアメの会社です」と答えると、多くの人が「懐かしいですね」と言ったそうです。

その言葉がうれしい一方で、「懐かしい=最近食べてもらえていないのかもしれない」と感じたといいます。「もっと多くの人にパインアメを知ってもらいたい。」そう考えた井守さんは、会社に「Twitterを始めてみてはどうか」と提案しました。

当時、パイン株式会社では年に1度、朝日新聞に広告を出していました。
しかし、「お金がかかる割に効果が見えにくい」と感じていた井守さんは、加ト吉(現・テーブルマーク)の広報担当・末広さんがTwitterでお客さまと直接コミュニケーションを取っていることを知り、「無料でできるなら試してみよう」と思い立ちました。

「Twitterって何?と社内では誰も知らない状態でした。
でも、“お客さまと直接つながれる”という新しい可能性を感じました。」

こうして2010年8月1日(パイアメの日)に公式アカウントを開設。
この一歩が、パイン株式会社の“お客さまとつながる広報”の始まりでした。

炎上しないための2つのルール

SNS運用を始める際、社内では不安の声もありました。
その中で井守さんが決めたのは、たった2つのルールです。

  1. 人を傷つけないこと
  2. 自社の商品から離れすぎないこと

「難しいマニュアルを作るよりも、シンプルな約束を守ることが大事です。この2つを守れば、安心して発信を続けられます。」

SNSでは、商品の紹介だけでなく、季節の話題や日常の挨拶など、自然なやり取りを心がけているそうです。

お客さまの声にはできるだけ丁寧に返信し、時には工場や開発チームにも共有。こうした“日々の対話”が、パイン株式会社のあたたかいファンコミュニティを生んでいきました。

「SNSは広告ではなく、お客さまと話す場所。
友だちと話すように、気軽で自然な関係を作りたいと思いました。」

「声を聞いて動く」から生まれた奇跡 ― 約70年ぶりの里帰り

井守さんの「お客さまの声を聞く姿勢」が、大きな感動を生みました。
2023年3月、パイン株式会社のホームページに1通のメッセージが届きます。

「亡くなった祖母の遺品を整理していたところ、古いパインアメの缶が出てきました。手芸のボタン入れとして大切に使っていたようです。」

その方は、缶を捨てるか迷い、インターネットで調べたところ、パイン株式会社のSNSで「過去の缶をオークションで入手した」という投稿を見つけ、「製造元に保管してもらう方が良いかもしれない」と考えて連絡をくださったそうです。

缶には、創業当初の社名「業平製菓」が記されていました。
社内にも残っていなかった貴重な品で、井守さんは「大切に保管します」と返信。
こうして、パインアメ缶は約70年ぶりに“お里帰り”を果たしました。

SNSでの反響 ― 17.9万いいね!の共感

この出来事を井守さんがSNSで紹介すると、たちまち多くの反響が寄せられました。
投稿は17.9万いいね!を超え、「おばあさまの思い出が素敵」「私も缶を大切にしています」といった声があふれました。

さらに、「復刻してほしい」という声も多く届きました。
その声を受けて、井守さんたちは「このご縁を形に残したい」と考えました。

“思い出を形に” ― 阪神梅田本店での復刻販売

寄せられた声をきっかけに、2023年8月16日から阪神梅田本店で開催された催事「パインなおやつ」で、限定3,000缶の復刻パインアメ缶を販売しました。

デザインは当時の雰囲気を残しつつ、現在の社名に合わせて一部をバージョンアップ。さらに、寄贈してくださったご家族とおばあさまへの感謝を込めて、缶の中の個包装に“ボタン柄”をひとつだけデザインしました。

「おばあさまがボタン入れにしてくださっていたことに、心から感謝の気持ちを込めました。」
ボタン柄はランダムに印刷されており、出会えた方には小さな“幸せのサイン”となりました。

復刻パインアメ缶

※上記の画像は、パイン株式会社 公式サイトに掲載された「SNSで話題になった約70年前のパインアメ缶を復刻!「復刻パインアメ缶」を阪神梅田本店食祭テラスにて数量限定販売 クラブハリエとの「ご縁&ご円」で誕生した相互コラボスイーツも販売を開始!」から使用させていただいております。

声が広げるつながり

井守さんは、この出来事を通して「声の力」を改めて実感したといいます。

「お客さまの声があったから、この缶は帰ってきました。
そして、その声が次の“復刻”という行動につながりました。」

お客さまとの信頼を積み重ねて

パイン株式会社のSNSは、派手な宣伝ではなく、誠実な対話で成り立っています。
ひとつのコメントにも丁寧に返事をし、ときには「こんなご意見をいただいたので改良しました」と報告する。

「SNSは無料で始められます。でも、信頼は無料では得られません。
小さなやり取りの積み重ねが、会社の顔をつくるんです。」

井守さんのこの言葉に、視察に参加した私たちは深くうなずきました。

まとめ ― 声が企業を動かす時代に

約70年ぶりに里帰りしたパインアメ缶の物語は、ひとりのお客さまの声が企業を動かし、社会に温かい感動を広げた出来事でした。

創業から70年以上たった今も、パイン株式会社は「お客さまとつながる力」を大切にしています。
聞く力と動く力。その両方を持つことで、パインアメは世代を超えて愛され続けています。

この視察を通して、私たちも「誠実に耳を傾ける姿勢」が、企業の信頼を築くということを学びました。


※本記事は、2025年10月6日に実施した大阪南ロータリークラブ職業奉仕委員会による「パイン株式会社 滋賀工場視察」での井守広報部長の講話および、公式サイトに掲載された「約70年ぶりに里帰りしたパインアメ缶」の内容をもとに構成しています

投稿者プロフィール

佐藤元相
佐藤元相
1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。

著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。
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