今回のお話は、建築板金業における価格改定についてです。
材料費、人件費、外注費、燃料費などが上がっています。
値上げが必要だと分かっていても、
「仕事がなくなるのではないか」
「元請けから仕事を切られるのではないか」
その不安から、以前の価格を続けている会社もあると思います。
いきなり、すべてのお客さまへ同じ値上げをする必要はありません。
最初に、お客さまを売上と利益性でグループ分けします。
そして、グループごとに価格改定の進め方を変えます。
それでは詳しくご紹介します。

「急に値上げをすると、お客さまが離れませんか」
先日、全国建築板金協会で講演する機会をいただきました。
全国から約250名の方々が参加されていました。
今回の講演テーマは、
「唯一無二の強みを磨く」
です。
目次
下請け体質から抜け出し、価格ではなく、自社の強みで選ばれる会社をつくる。
そのためのランチェスター戦略についてお話ししました。
講演のなかで、このような声がありました。
「急に値上げをすると、お客さまが離れてしまうのではないですか」
経営者にとって、切実な問題です。
長くお付き合いしてきた元請けや工務店があります。
仕事をいただいてきた恩もあります。
値上げをお願いしたことで、関係が悪くなるのは避けたい。
他社へ仕事が流れることも心配です。
その気持ちは、私にもよく分かります。

私は、すべてのお客さまへ一律に値上げするのではなく、まず顧客をグループ分けすることが大切だと考えています。
売上はあるのに、なぜ利益が残らないのか
建築板金業では、売上が大きなお客さまが、必ずしも利益を生んでいるとは限りません。
毎月、仕事をいただいている。
現場の数も多い。
請求額も大きい。
一見すると、会社を支えてくださっている得意先に見えます。
しかし、現場まで片道1時間以上かかっている。
急な工程変更が多い。
現場での待ち時間が長い。
他業者との調整に時間がかかる。
追加工事が金額に反映されていない。
手直しに行っても、費用を請求していない。
このような仕事が重なると、売上はあっても利益が残りません。
職人は忙しく働いている。
社長も現場へ出続けている。

しかし、会社にお金が残らない。
この状態を変えるには、売上だけでお客さまを見ないことが大切です。
売上順位と利益性順位を並べてみる
最初に、お客さまごとの売上順位を出します。
次に、利益性の順位を出します。
確認するのは、売上高だけではありません。
粗利益額と粗利益率を見ます。
建築板金業では、お客さま別の数字に加えて、現場別の採算も確認する必要があります。
同じお客さまからいただいた仕事でも、利益が残る現場と、利益が残らない現場があるからです。
材料費。
外注費。
職人の作業時間。
移動時間。
車両費や燃料費。
荷揚げや運搬の手間。
現場調査や見積もりの時間。
工期変更による待機。
追加工事や手直し。
こうした費用と時間を含めて、現場の採算を見ます。

数字を並べると、これまで見えていなかった経営課題が見えてきます。
お客さまを4つのグループに分ける
売上と利益性を基準に、お客さまを大きく4つに分けます。
これは、お客さまの人間的な価値に順位をつけることではありません。
お客さまとの関係を長く続けるために、現在の取引状況を正しく知る取り組みです。

グループ分けをすると、どのお客さまへ、何を、どの順番で伝えるのかが見えやすくなります。
1.売上が高く、利益性も高いお客さま
会社を支えてくださっている大切なお客さまです。
まず、日頃のお取引への感謝を伝えます。
そのうえで、今後も施工品質、安全、納期を守るために、何が必要なのかを共有します。
値上げの話だけをするのではありません。
職人を育てること。
道具や車両を更新すること。
技術を次の世代へ残すこと。
災害や緊急時にも対応できる体制を守ること。

これからも安心して仕事を任せていただくための価格改定として、丁寧に話し合います。
2.売上は高いが、利益性が低いお客さま
価格改定を優先して相談したいグループです。
売上が大きいため、値上げを言い出しにくいお客さまでもあります。
しかし、取引量が多い分、利益が残らない状態を続けると、会社への影響も大きくなります。
まず、どこで利益が失われているのかを確認します。
工事単価の問題なのか。
遠方への移動が多いのか。
小さな追加工事が積み重なっているのか。
工程変更や待機時間が多いのか。
緊急対応が通常料金に含まれているのか。
原因を明らかにしたうえで、価格や取引条件を相談します。

「何%上げるか」を決める前に、「なぜ利益が残っていないのか」を調べることが必要です。
3.売上は低いが、利益性が高いお客さま
自社の技術や対応力を評価してくださっている可能性があります。
このお客さまには、ぜひ聞いてほしいことがあります。
「なぜ、当社へ依頼してくださっているのですか」
「他社と比べて、どこを評価してくださっていますか」
「どのような時に、当社へ相談しようと思われますか」
お客さまの答えのなかに、自社が選ばれている理由があります。
その価値をさらに磨き、同じようなお困りごとを持つお客さまへ届けます。

価格を上げることだけでなく、よい取引を増やすことも、利益を改善する方法です。
4.売上も利益性も低いお客さま
すぐに取引をやめるということではありません。
まず、利益が残らない理由を調べます。
対応する地域を見直す。
少額工事の料金を決める。
現場調査費を明確にする。
緊急対応費を決める。
追加工事は、その場で内容と金額を確認する。
工期変更や長い待機が続く場合は、取引条件を相談する。

価格だけでなく、仕事の受け方を変えることで、利益が改善する場合があります。
値上げ交渉で伝えるのは「価格」だけではない
「材料費が上がったので、値上げさせてください」
これだけでは、お客さまには自社都合のお願いに聞こえることがあります。
お客さまが買っているのは、屋根や外壁を取り付ける作業だけではありません。
雨漏りの原因を見つける力。
建物に合わせて納まりを考える技術。
安全に工事を進める力。
決められた工期を守る力。
現場監督や他業者と調整する力。
工事中に報告する安心感。
災害や緊急時に対応する力。
工事が終わった後も相談できる関係。
これらも、建築板金業が提供している大切な価値です。
値上げ交渉は、価格を上げてもらうためのお願いだけではありません。

自社が提供してきた価値を、お客さまと確認する対話です。
値上げをしなければ守れないものがある
顧客離れを心配することは必要です。
一方で、値上げを先送りし続けることにもリスクがあります。
利益が残らなければ、社員の賃金を上げられません。
新しい職人を採用できません。
道具や車両を更新できません。
安全への投資も難しくなります。
技術を次の世代へ残すこともできなくなります。
価格を上げることだけが目的ではありません。
必要な利益を確保し、会社を存続させることです。
社員と家族の生活を守る。
技術を守る。
そして、これからもお客さまに安心して仕事を任せていただく。

そのために必要な価格を考えることが、社長の大切な仕事だと思います。
ランチェスター戦略では重点を決める
ランチェスター戦略では、すべてのお客さまへ同じ力をかけるのではなく、重点を決めます。
どのお客さまとの関係を深めるのか。
どの仕事の条件を見直すのか。
どこから価格改定の相談を始めるのか。
順番を決めます。
価格改定は、案内文を一斉に送って終わるものではありません。
お客さまごとの取引内容を確認します。
自社の価値を整理します。
相手の立場も聞きながら対話します。
小さな会社には、お客さまの顔を見て話せる強みがあります。
数字と人間関係の両方を大切にしながら、価格改定を進めていくことが必要です。
まとめ
「急に値上げをすると、お客さまが離れるのではないか」
その不安を持ったまま、一斉に価格を上げる必要はありません。
最初に、お客さまごとの売上と利益性を確認します。
次に、現場別の採算を見ます。
そして、お客さまを4つのグループに分けます。
グループごとに、価格改定の順番と伝える内容を変えます。
値上げ交渉で伝えるのは、コストの上昇だけではありません。
これまで、お客さまへ届けてきた価値です。
これからも品質、安全、納期を守り、安心して任せていただくための価格改定です。
今日からできる小さな一歩
まず、売上上位10社を書き出してください。
その横に、粗利益額と粗利益率を書きます。
さらに、利益を圧迫している現場や作業がないかを確認します。
「売上の大きなお客さまが、本当に会社の利益を支えてくださっているのか」
ここを確認することから始めてみてください。

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次回予告
次回は、値上げ交渉で何を伝えれば、お客さまに価値を理解していただけるのかを考えます。
自社では当たり前になっている技術や対応のなかに、まだ言葉になっていない価値があるかもしれません。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。



