――事業承継は、会社を渡して終わりではない
今回のお話は、経営者の遺言と事業承継についてです。
遺言書をどのように書くのか。
自社株をどのように渡すのか。
もちろん、これらも大切です。
しかし、事業承継の本当の目的は、
後継者が経営を引き継ぎ、その会社をさらに良い会社へ育てていくことです。
今回は、中小企業の株式承継を専門とする司法書士の松井秀也さんをお迎えし、トークライブを開催しました。
トークライブで私は1位づくり戦略コンサルタントとしてではなく、一人の経営者として松井さんとリアルに対談しました。
そして、その話を息子も後ろで一緒に聴いていました。
家族の相続。
会社の承継。
承継した後の経営。
経営者が元気なうちに考えたいことを、松井さんとの対話からお伝えします。
それでは詳しくご紹介します。

目次
「遺言?まだ大丈夫やろ」
「松井さん、遺言っていつ考えたらええの?」
私自身、まだ元気です。
毎日、会社へ出ています。
仕事もしています。
息子への事業承継も、少しずつ進めています。
しかし、心のどこかには、「遺言は、まだ大丈夫やろ」という気持ちがありました。
実際、遺言書を準備している経営者は、決して多くないそうです。
ある経営者の会で弁護士が尋ねたところ、約200人のうち、遺言書を書いていた人は2人だったという話も出ました。
「まだ元気だから」
「うちは兄弟の仲がいいから」
「会社は息子に継がせると決めているから」
「自分が死んだ後は、家族で好きに分けたらいい」
そう考えて、話し合いを先延ばしにしてしまいます。

私にも、その気持ちは分かります。
仲のよかった家族が、相続で離れてしまった
松井さんが司法書士を志すきっかけの一つに、ご自身の家族の相続問題があったそうです。
もともとは、とても仲のよい家族でした。
それが、家族が亡くなったことをきっかけに揉めてしまいました。
調停まで進み、解決には2年半かかったといいます。
手続きが終わっても、家族の関係は元に戻りませんでした。
「もう一生、連絡を取らない」
そのような関係になってしまったそうです。
この話を聞き、私は胸が痛くなりました。
亡くなった人は、家族が揉めることを望んでいなかったはずです。
家族のために残した財産が、家族を離れさせてしまう。
こんな悲しいことはありません。
松井さんは、この経験から、
「家族には揉めてほしくない」

という思いを持ち、相続や株式承継の仕事に取り組んでいます。
相続は、介護から始まっている
今回、特に印象に残った言葉があります。
「相続は、介護から始まっている」という言葉です。
相続というと、亡くなった後に財産を分ける話だと思いがちです。
しかし、家族の負担は、それより前から始まっています。
自分で生活することが難しくなったとき、誰が施設を探すのでしょうか。
施設へ入るとき、誰が手続きをするのでしょうか。
病院から緊急の連絡が入ったとき、誰が駆けつけるのでしょうか。
日常のお金や契約は、誰が管理するのでしょうか。
「施設へ入るから、子どもには迷惑をかけない」
そう考える人もいます。
しかし、施設へ入る場合にも、家族の誰かが動くことになります。
その負担が、一人の子どもに集中する場合があります。
一生懸命に介護をした人。
ほとんど介護に関わらなかった人。
相続が始まれば、それぞれの権利をもとに話し合うことになります。
そのとき、
「私はこれだけ親の世話をしてきたのに」
という気持ちが表に出ることがあります。
介護への感謝と財産の分け方は、同じ問題ではありません。

しかし、長い間積み重なった感情が、相続をきっかけに噴き出すことがあります。
まず、自分の希望を家族へ伝える
では、何から始めればよいのでしょうか。
松井さんは、まず自分の希望を整理することが大切だと話してくれました。
例えば、次のようなことです。
- 介護が必要になったら、誰に支えてほしいのか
- 自宅で暮らしたいのか、施設へ入りたいのか
- 配偶者の生活をどのように守りたいのか
- 財産を誰に、どのような思いで渡したいのか
- 家族に何を伝えておきたいのか
いきなり正式な遺言書をつくる必要はありません。
まずは、エンディングノートなどを使い、自分の気持ちを書き出します。
そして、その内容をもとに家族と話します。
一度の話し合いで、すべてを決める必要もありません。
「もし自分で動けなくなったら、どうしたい?」
「誰に手伝ってもらいたい?」
「今のうちに、聞かせてほしい」
正しさを押しつけず、何度か対話を重ねることが大切です。
経営者には「二つの承継」がある
経営者には、二つの承継があります。
一つは、自分の生活や財産に関する承継です。
もう一つは、会社の承継です。
会社を誰に託すのか。
後継者は本当に会社を引き継ぎたいと思っているのか。
会社の財務内容を理解しているのか。
借入金や個人保証はどうなっているのか。
自社株は誰が持っているのか。
株式を、いつ、どのように引き継ぐのか。
経営者の場合、家族の相続と会社の事業承継が重なります。
「息子に会社を継がせる」
そう決めただけでは、準備が整ったとはいえません。
社長という役職を渡すこと。
経営に必要な権限を渡すこと。
株式を渡すこと。
会社を経営する力を育てること。

これらは、それぞれ考える必要があります。
息子も後ろで一緒に聴いていた
この日は、息子も後ろで一緒に松井さんの話を聴いていました。
私は、息子への事業承継を進めています。
しかし、私だけが、
「息子に会社を渡す」
と決めても、事業承継にはなりません。
息子自身が、会社の財務内容を知る必要があります。
自社株がどのようになっているのかを知る必要があります。
社員とお客さまに対して、どのような責任を負うのかも理解しなければなりません。
そのうえで、
「自分は、この会社をどのような会社にしたいのか」
を考える必要があります。
親子で同じ話を聴くことには、大きな意味があると感じました。
父親が話した内容を、息子が一方的に聞くのとは違います。
同じ専門家の話を、同じ場所で聴く。

分からないことを、それぞれの立場から尋ねる。
親の考えと、後継者の考えの違いを知る。
そこから、本当の対話が始まります。
事業承継は、会社を渡して終わりではない
事業承継では、会社を渡すことに意識が向きます。
しかし、本当に重要なのは、その後の経営です。
会社を引き継いでも、お客さまが減り、利益が出なくなれば、社員を守れません。
借入金を返せなければ、会社を続けることも難しくなります。
後継者には、経営戦略が必要です。
誰をお客さまにするのか。
どの商品や技術に力を集中するのか。
どの地域で戦うのか。
どのような営業方法でお客さまをつくるのか。
どのように既存のお客さまとの関係を深めるのか。
何の分野で1位を目指すのか。
後継者は、自分の頭で考え、決めなければなりません。
先代と同じことを続ければよいとは限りません。
一方で、先代が築いてきたものを、すべて変えればよいわけでもありません。
守るものと、変えるものを決める必要があります。
親子で「守るもの」と「変えるもの」を話す
守りたいものがあります。
社員やお客さまを大切にする姿勢。
会社が大切にしてきた理念。
現場で磨いてきた技術。
仕入れ先や協力会社との信頼関係。
地域とのつながり。
長い時間をかけて積み重ねてきた信用です。
一方で、変えていくものもあります。
重点とする業界や客層。
商品やサービス。
時代にあった営業方法。
情報発信の方法。
社内の役割。
仕事の進め方。
時代に合わなくなった仕組みです。
先代は、後継者を自分のコピーにするのではありません。
後継者も、先代が築いてきたものを否定するのではありません。
何を受け継ぐのか。
何を新しくするのか。

親子で言葉にすることが大切です。
遺言や自社株対策は、全体の一部である
思考するときは、目的、全体、単純の順番で取り組むことが大事です。
遺言書をつくる。
株式を移す。
自社株の評価を調べる。
相続税について考える。
これらは大切な具体策です。
しかし、その前により重要なことは目的を決めることです。
家族にどのような関係でいてほしいのか。
会社を誰に託したいのか。
社員とお客さまを、どのように守りたいのか。
会社を、これからどのように発展させたいのか。
その目的を家族や後継者と共有します。
その後に、法律、税務、株式などの具体的な方法を専門家と考えます。

方法だけを先に決めると、本来の目的から外れてしまうことがあります。
良い会社をつくるところまでが事業承継
私は、経営支援の目的は、売上や利益を上げることだけではないと考えています。
お客さまに喜ばれる。
仕入れ先を含めて、社員と家族が幸せにする。
お客さまとの信頼と、社員の貢献から、売上と利益が生まれる。
その結果、新しい設備や人材へ投資できる。
そして、さらにお客さまの役に立つ。
この循環をつくることが経営です。
事業承継も、会社を渡したところがゴールではありません。
後継者が経営戦略を学ぶ。
自分の意思で会社の未来を描く。
社員を大切にする。
お客さまに喜ばれる仕事をつくる。
利益を生み、次の成長へ投資する。

そこまで進んで、本当の事業承継になるのだと思います。
まとめ
今回、松井秀也さんとのトークライブを通じて、遺言と事業承継について考えました。
遺言は、亡くなる準備だけではありません。
家族が困らないように、自分の思いを伝える準備です。
事業承継も、社長を交代して終わりではありません。
後継者へ経営に必要な権限、株式、情報、理念、信用を引き継ぐ必要があります。
そして、後継者が経営戦略を持ち、良い会社をつくっていくことが何より重要です。
経営者には、二つの問いがあります。
「自分を誰に託しますか」
「会社を誰に託し、その人とどのような会社をつくりますか」
元気で、自分の言葉で伝えられるうちに、話し始めることが大切です。
今日からできる小さな一歩
まず、家族や後継者へ、こう声をかけてみてください。
「ちょっと、これからのことを話そうか」
最初の話し合いで、結論を出す必要はありません。
次の三つを確認するところから始めてください。
1.自分が動けなくなったら、誰に支えてほしいか
2.会社を誰に、いつ託したいか
3.会社の何を守り、何を変えていきたいか
家族会議と、親子の経営戦略会議。
この二つを始めることが、未来への一歩になります。
遺言、自社株、相続、会社の承継について具体的に進めるときは、税理士、司法書士、弁護士など、それぞれの内容に合った専門家へ相談してください。

松井秀也さんをお迎えしたトークライブの内容は、こちらでご紹介しています。
投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。



