こんにちは
1位づくり戦略コンサルタントの佐藤です。

「うちの会社には、これといった強みがないんです」
町工場の社長と話していると、そんな言葉を耳にすることがあります。
「社員も少ないし、設備も古い。大手のような大量生産もできない。
結局、品質と納期と価格で勝負するしかないんです」
私は、そんな社長にお伝えしたいことがあります。
町工場には、必ず一番に活かせる強みがある。
ただ、その強みは、社長自身には見えていないことがあります。
毎日当たり前にやっている仕事だからこそ、その価値に気づいていないのです。

では、どうすれば自社の強みを見つけ、お客さまから選ばれる会社になれるのでしょうか。
そのヒントを、埼玉県横瀬町と東大阪の町工場の取り組みから考えてみたいと思います。
目次
「何もない町」が挑戦する人に選ばれた
先日、日本経済新聞で、埼玉県横瀬町の取り組みを読みました。
横瀬町は、秩父地域にある人口約7,400人の小さな町です。
人口減少が続き、大きな商店街も、企業を誘致するための広い土地もありません。
一般的に考えれば、地域を発展させるには不利な条件がそろっています。

しかし、横瀬町は、その弱みを違う角度から見直しました。
大きな産業がないからこそ、新しい事業を受け入れやすい。
町が小さいからこそ、人と人との距離が近く、協力関係をつくりやすい。
こうした特徴を活かし、2016年に始めたのが「よこらぼ」です。
企業や起業家が新しい事業を試すために、町を実証実験の場として提供する取り組みです。
町は、お金を出すことよりも、地域の人との橋渡しや、実験のための調整を大切にしました。
そして10年間、挑戦する人を応援し続けてきました。
2025年度には、12年ぶりに転入者が転出者を上回りました。
もちろん、転入超過の理由を「よこらぼ」だけに求めることはできません。
人口減少という課題も残っています。
それでも、横瀬町が自分たちの特徴を見つめ直し、
独自の価値を育ててきたことには、大きな学びがあります。
強みと弱みは表裏一体
私は、この取り組みを読んで、ランチェスター戦略の考え方と重なるものを感じました。
横瀬町は、大都市のようになろうとしたのではありません。
自分たちにないものを追い求めるのではなく、
自分たちだからこそ提供できる価値を見つけました。
ここが重要です。
| 一般的には弱み | 見方を変えたときの強み |
| 人口が少ない | 人と人との距離が近い |
| 大きな産業がない | 新しい事業を受け入れる余地がある |
| 商業施設が少ない | 既存の形にとらわれず挑戦できる |
| 財源が限られる | 知恵と協力を活かす発想が生まれる |

ただし、弱みが自動的に強みに変わるわけではありません。
大切なのは、誰にとって価値になるのかを考えることです。
横瀬町は、あらゆる人に選ばれる町ではなく、
挑戦したい企業や起業家にとって魅力のある町を目指しました。
これこそ、小さな会社が学ぶべき戦略の考え方です。
「高品質・短納期・低価格」は本当に強みなのか
町工場の社長に、自社の強みを尋ねると、よく次のような答えが返ってきます。
「品質には自信があります」
「短納期で対応できます」
「低コストで製造できます」
「小ロットにも柔軟に対応します」
もちろん、どれも大切なことです。
しかし、ライバル会社のホームページにも同じことが書かれていたら、
どうでしょうか。
それだけでは、お客さまが自社を選ぶ理由にはなりません。

例えば、社員10人の町工場があるとします。
大量生産では、大企業にかないません。
しかし、開発途中の部品を1個だけ試作したいお客さまにとってはどうでしょう。
社長や職人と直接相談できる。
図面が完成していなくても、加工方法を一緒に考えてくれる。
仕様変更にも柔軟に対応してくれる。
そうしたことが、お客さまにとって大きな価値になる場合があります。
大企業と同じ土俵で戦えば弱みでも、戦う場所を変えれば強みになるのです。
業績が厳しいとき、お客さまの声から強みを発見した
ここで紹介したいのが、東大阪市の株式会社永田製作所です。
永田製作所は、精密切削加工を手がける町工場です。
同社の永田弘社長とは、長年にわたり1位づくり戦略を実践してきました。
2012年、永田製作所の業績は厳しい状況にありました。
従来のやり方を続けるだけでは、会社の未来を描くことが難しくなっていました。

そこで取り組んだのが、お客さまへのインタビューです。
自分たちは、なぜ選ばれているのか。
お客さまは、どんなことに困っているのか。
ほかの加工会社と比べて、どこを評価してくださっているのか。
お客さまの声を聞くことで、社内では当たり前だと思っていた仕事の中に、
独自の価値があることに気づいたのです。
その一つが、熱処理工程のある製品を仕上げる技術とノウハウでした。
金属部品は、熱処理によって硬さが変わるだけでなく、
歪みや寸法のばらつきが生じることがあります。
そのため、熱処理を伴う部品の加工には、工程全体を考えた技術と管理が求められます。
永田製作所は、そこに自社の専門性を見いだしました。
そして、熱処理工程のある製品の切削加工に専門特化する方針を明確にしたのです。
打ち出したのが、「切削達人」という専門性でした。

何でもできる町工場ではなく、特定の加工課題で頼りにされる町工場を目指したのです。
「納期が早い」ではなく「工程のムダを減らす」
永田製作所の取り組みで、もう一つ興味深いことがあります。
それは、納期の短さを単なるスピード競争として打ち出さなかったことです。
金属部品の製造では、切削加工、熱処理、研磨など、
複数の会社が工程を分担する場合があります。
それぞれの会社が納期に余裕を持たせると、工程全体の納期が長くなることがあります。
永田製作所は、工程・生産管理の精度を強みとして、こうした課題の解決を提案しました。
展示会では、工程ごとに積み重なる余分な日数を減らす価値を、
ユーモアのある表現で伝えました。
永田社長がサバの着ぐるみを着て来場者の関心を集めたこともあります。
一見すると、面白い展示会の演出です。
しかし、その背景には明確な戦略がありました。
単に「短納期です」と言うのではなく、
お客さまが抱える工程管理の問題に着目し、自社の価値を伝えたのです。

この違いは、とても大きいと思います。
強みを見つけた後は、必要なお客さまに伝える
永田製作所は、専門分野を明確にしただけではありません。
展示会を新しいお客さまと出会う場所に選びました。
そこで出会った人には、永田社長の人柄や日々の出来事を伝える通信
「まいど、おおきに。永田です」を定期的に届けました。
売り込みばかりをするのではなく、人柄が伝わる情報を届け、関係を育てていったのです。
すると、少しずつ変化が生まれました。
展示会で出会った人が工場見学に訪れるようになりました。
通信を読んだ人から、見積もりの相談が届くようになりました。
「熱処理後の加工が得意な会社」として、思い出してもらえる機会も増えました。
やがて、従来は出会えなかったお客さまからの引き合いが増え、業績回復につながっていったのです。
ここで大切なのは、営業活動の量だけを増やしたのではないことです。
誰に、何を、どのように伝えるのか。
その方向を明確にしたうえで、展示会、ホームページ、通信、工場見学を組み合わせて取り組んだのです。

強みを見つけることと、その強みを必要とするお客さまに伝えること。
この両方があって、初めて選ばれる会社に近づいていきます。
下請けから脱却するのではなく、価格競争から脱却する
私は、製造業の経営について「下請けから脱却しなければならない」という
言葉を耳にすることがあります。
しかし、下請けであること自体が問題なのでしょうか。
私は、そうは思いません。
下請けであっても、強い会社はつくれます。
問題は、発注先から「どこに頼んでも同じ」と思われ、価格だけで比較されてしまうことです。
反対に、特定の仕事で高い専門性を持ち、お客さまから頼りにされる会社は、
下請けであっても選ばれる存在になれます。
| 価格競争に巻き込まれる町工場 | 専門性で選ばれる町工場 |
| 何でもできます | この加工課題なら任せてください |
| 安さと速さを訴える | お客さまの困りごとの解決を訴える |
| 相見積もりで比較される | 技術相談から関係が始まる |
| 受注を待つ | 必要なお客さまとの接点をつくる |
| ライバルと同じ土俵で戦う | 自社の得意分野で戦う |

目指すべきは、下請けという立場を変えることだけではありません。
価格競争から脱却し、自社の価値で選ばれる会社をつくることです。
人も会社も、同じ物差しで比べなくていい
私は、この考え方は、子どもたちの成長にも通じると思っています。
子どもには、それぞれ得意なことと苦手なことがあります。
勉強が得意な子もいれば、ものづくりが得意な子もいます。
人の気持ちに気づくことが得意な子もいます。
すべての子どもを同じ物差しで評価するのではなく、
一人ひとりの良さを見つけ、その可能性を伸ばしていく。
会社も同じではないでしょうか。
大きな会社には、大きな会社の強みがあります。
小さな会社には、小さな会社の強みがあります。
そして、会社の中で働く社員にも、それぞれの持ち味があります。

私は、経営とは、会社と人が持っている可能性を見つけ、
輝かせる仕事でもあると思っています。
自社の強みは、お客さまが教えてくれる
最後に、町工場の社長に三つの質問をしたいと思います。
- お客さまは、なぜライバルではなく、自社に仕事を依頼してくださるのでしょうか。
- 自社の技術や経験が、最も役立つのはどのような仕事でしょうか。
- その価値を必要としているお客さまに、自社の強みは伝わっているでしょうか。
すぐに答えが出なくても構いません。
まずは、長くお付き合いしているお客さまに、選ばれている理由を聞いてみてください。
そこに、自社の未来をつくるヒントが隠れているかもしれません。
横瀬町は、ないものを嘆くのではなく、自分たちの特徴を活かし、
挑戦する町として独自の価値を育てました。
永田製作所は、お客さまの声から自社の強みを発見し、
専門性を磨き、新しいお客さまとの接点をつくりました。
両者に共通しているのは、自分たちの条件を見つめ直し、
誰にとって価値があるのかを考えたことです。
強みと弱みは表裏一体。
どちらの面を見るか。そして、誰にとっての価値として磨いていくか。
そこに、経営戦略の面白さがあります。
町工場には、必ず一番に活かせる強みがある。

私は、これからも町工場の社長と一緒に、その強みを見つけ、
お客さまから選ばれる会社づくりに取り組んでいきたいと思います。
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投稿者プロフィール

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1962年 大阪生まれ。1位づくり戦略コンサルタント。
立志立命式代表世話人。
中小企業に従事した自らの体験を踏まえ、コンサルタントとしてこれまで1300社以上の指導実績を持つ。
また豊富な現場経験から生み出された1位づくり戦略をはじめ多彩なテーマで年間100回以上のセミナーを行い、実践的かつ即効性がある好評を博している。
自ら主催する経営塾「あきない道場」には、全国からたくさんの経営者が参加。その理論を実践し短期間に多くの成功事例を生み出している。
著書には、『小さな会社★採用のルール』をはじめ、『「あなたのところから買いたい」とお客に言われる小さな会社』、『小さな会社☆No.1のルール』、『小さな会社☆集客のルール』、『スゴい仕掛け』など、いずれもAmazonカテゴリーで1位を獲得している。



